大村雅朗没後25年、生前最後のスタジオをともにした石川鉄男と音像を辿る



田家:石川さんが選ばれた今日の3曲目です。渡辺美里さんで1986年のアルバム『Lovin’ you』の中の「君はクロール」。

石川:今回大村さんの没後25周年のメモリアルライブで、初めて「これ大村さんの曲なんだ」って知ったんですね。おそらくこの曲は誰かが書いて、清水信之さんあたりがアレンジしたのかなと思ったんです。結構緻密だし、洋楽っぽいし、ずっとスルーしていたんですけど、この前知って。たまたまその近くにキーボードをやっている富樫春生さんとよく飲んだりするんですけど話を聞いたら、「バク(大村)とこれだけ追求したことなかったわ」って。

田家:この曲は作詞が美里さんで、作曲と編曲も大村さんですもんね。アルバム全曲の編曲とプロデュースが大村さん。アルバムのシンセサイザーオペレーターには松武秀樹さんと浦田恵司さんの名前がクレジットされていました。

石川:浦田さんは打ち込みをしないんですよね。僕も神の音と言うんですけど、太いし奥行きがある音。大村さんが大好きな音ですね。大村さんはピーター・ガブリエルとかが大好きで、浦田さんが作る音ってなんかピーター・ガブリエルに似ているなって。松武さんはプロ中のプロですね。

田家:4人目のYMOですもんね。

石川:もちろん音色もすごいんですけど、大村さんが「分からないよ~」とかわがままっぽく言ったのを上手い具合にニコニコして笑いながら進めていってくれて、プロデュース進行もやられていたみたいで。そのお二方が入れ替わっていく中で、大村さんのサウンドが生まれていたという感じですね。

田家:このアルバムのクレジットでシンセサイザーオペレーターという言葉が使われていて、松武秀樹さんはマニピュレーターという言葉を世間に知らしめた最初の人と言っていいと思うんですけど、マニピュレーターという呼び方はどのへんからになるんですか?

石川:初期がマニピュレーターと呼ばれていて、途中で日本プログラマー協会みたいなのができて、プログラマーという名前にしましょうってなったはずです。その頃は入り組んでいるんですよね。マニピュレーターって言うとセンスを感じないみたいに言ってました。なので、プログラマーって名前を変えた時に松武さんのご尽力でプログラマーにも印税が発生するみたいなことがありまして。

田家:アレンジャーにも印税がなかった時代がありましたからね。

石川:そうですね。松武さんと亡くなられた冨田勲さんが頑張られて。今はプログラマーというのが正式名称になった気もしますね。

田家:『Lovin’ you』もあらためて聴き直すと、こんなに広い音像のアルバムだったのかと今回思いました。「君はクロール」はその代表的な曲の1つでしょうけど。

石川:このアルバムは僕、完全に参加してないんですけど大村さんと過去と今まで付き合ってきた仲で自由にやらせるとこうなるんです。大村さんとしては俺は完璧なものを出したはずなのに、ちょっとここがとか言われるとちょっとカチンと来るタイプの人で(笑)。

田家:職人魂がね(笑)。

石川:この時はプロデューサーの方もあまり言わなかったというか、バリエーションの高いミュージシャンのいいところを全部引っ張ってくれるアルバムになったんじゃないかなと想像しますけどね。

田家:渡辺美里さんの代表作であると同時に、アレンジャー大村雅朗さんの1つの代表作になっているということですね。石川さんが選ばれた今日の4曲目、この曲も音像の曲です。薬師丸ひろ子さん、1984年「メイン・テーマ」。

Rolling Stone Japan 編集部

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