ヴァンパイア・ウィークエンドが語るフジロック出演の真意、細野晴臣とダニエル・ハイムのこと

ヴァンパイア・ウィークエンドのエズラ・クーニグ。2018年、フジロックのGREEN STAGEにて撮影 (Photo by Shuya Nakano)

GREEN STAGEのヘッドライナーとして、ヴァンパイア・ウィークエンド(Vampire Weekend)が4年ぶりにフジロックに戻ってくる。しばらく活動を休止していたようにも思える彼らが今回の出演を決めた背景には、フジロックへの特別な思い入れがあったという。現在次回作のレコーディング中だというフロントマンのエズラ・クーニグが、日本とも関わりの深い目下の最新アルバム『Father of the Bride』に秘められたエピソードや、気になるバンドの近況について、ロサンゼルスの自宅からZoomでインタビューに応じてくれた。

インタビューが始まる前に、自宅の壁に飾ってあった一枚の写真を見せてくれたエズラ。そこに写っていたのは、彼のパートナーである女優ラシダ・ジョーンズの母親で、アルバム『Father of theBride』の発売から1週間後に亡くなった女優でミュージシャンのペギー・リプトンが、自宅で水色のピアノを弾く姿だった。ラシダの家にあったこのピアノで、エズラはアルバムに収録された曲の多くを書いたという。

雑誌の『LIFE』に載ったこの写真を見つけて、額装したんだ。息子がこれを見て、自分のお婆ちゃんだってわかるようにね」。前回のフジロック出演後に父親になったエズラに、改めてこの4年間を振り返ってもらった。

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フジロックは「Crunchy」

―まず、ヴァンパイア・ウィークエンドの活動が実質ストップしていたなか、今年のヘッドライナーを務めると聞いて驚きました。今回のフジロック出演にまつわる経緯と、バンドの状況について聞かせてください。

エズラ:最近はもっぱらレコーディングを行なっていた。君の言う通り、バンドの活動を一時的にストップしていたと取られてもしかたない。でも、最近少しずつライブもやるようになった。当然、ここ2年は、みんなと同じようにたくさんのライブをキャンセルせざるを得なかった。今年に入って、いくつかアメリカのフェスから出演依頼をもらって、出演することになった。フジロックからオファーをもらった時は、まず自分たちが一番好きな音楽フェスでもあるから、いつだって声を掛けられたら出たいと思っていたのもあるんだけど、それと同時にちょうど上手く、ぐるっと一巡するなと思ったんだ。というのも、2018年に活動を再開した時、最初にやったライブのひとつがフジロックだったんだけど、みんなで話していて、そういえばあの時は『Father of the Bride』の曲を一曲も演ってなかったことに気づいたんだ。だからまた出て、今度はアルバムの曲を演るというのが、すごく腑に落ちたのさ。

―前回出演した時点で、『Father Of The Bride』 の曲作りはほぼ終わっていたのではないかと思うのですが、実際、当時はどのような進捗状況だったのでしょう?

エズラ:その通りで、2017年には曲作りはほぼ終わっていた。アルバムがリリースされたのは2019年だけどね。今も、新作の仕上げ作業を時間を掛けながらやっているんだけど、ほとんどの曲を2020、2021年に書いている。アルバムがいつ出るかはまだわからないけど。それが昔からのこのバンドの哲学なんだ。曲を信じて、時間を掛けて機が熟すまで待つ、という。時には、世の中で起きた出来事のせいで、曲を違う文脈で捉えられたりしてしまうという不安もあるけど、それでも構わないと思っている。

―フジロックには2010、2013、2018年に続いて今年で4回目の出演となります。特別な思い入れや、印象に残っていることはありますか?

エズラ:まず立地が好き。緑に囲まれて、空気が新鮮なのと、ステージから見える景色が大好きだ。観客もいつもスーパー・クールだし。だからこそ、今回また出て、あのステージで『Father of the Bride』の曲を演りたかったんだ。僕にとってあのアルバムはフジロックを彷彿とさせるから。アウトドアな感じがするところがね。少しヒッピーで自然に囲まれた感じを表すのに、僕はいつも「Crunchy」という表現を使うんだけど(訳註:政治的にリベラルで環境への意識が高いことを指すスラングでも使われる)、そんな感じ。

面白い話があって、2018年に友達がフジロックでグレイトフル・デッドのタイダイのバックパックを買ってくれたんだけど、今でも愛用しているんだ。フジロックは雰囲気がとにかく最高だ。


2018年、フジロックのGREEN STAGEにて撮影 (Photo by Shuya Nakano)

―『Father of the Bride』がリリースされて3年が経ちましたが、改めて自分やバンドにとってどんな意味を持つ作品になったと思いますか?

エズラ:まあ、ご想像の通り、今は5作目となる次回作のことで頭がいっぱいだ。次のアルバムを出すことで、『Father of the Bride』がどう文脈化されるかを考えるのは楽しい。すごく誇りに思っている作品だし、僕たちが作るべき4作目のあるべき姿だったと思う。今5作目を作りながら、バンドとしてずっと面白くあり続けることがどれだけ大変かをヒシヒシと感じている。当然どんなアーティストだって人を惹きつける存在であり続けたいと思っているし、毎回違う味わいの作品を作ることで、それをやり遂げたい。僕のゴールとしては、最終的に10枚のアルバムを作りたいと思っている。そう、10枚くらいがちょうどいい。そして振り返った時に、どのアルバムも違う印象、違う味わい、違うムードであってほしい。その中で『Father of the Bride』も、ある特定の瞬間にしか出せなかった雰囲気や味わい、ムードを醸し出している作品として、独自の立ち位置を持ち続ける。これからバンドとして新境地を開拓して、新しいアイデアをいろいろ試していくわけだけど、あのアルバムは二度と繰り返すことのない瞬間として存在するだろうと確信している。

―『Father of the Bride』には、小坂剛正さんと髙山浩也さんという、ソニー・ミュージックスタジオ所属の日本人エンジニア2人が参加しています。日本で録音やミックスしたパートがあったのでしょうか?

エズラ:前回のフジロックの前の週末にオーストラリアのスプレンダー・イン・グラスというフェスに出て、その足で日本に行ったから、まるまる1週間オフがあったんだ。まだアルバムの作業が残っていたからソニーのスタジオに行って、そこのスタッフに手伝ってもらった。作業としては、いろいろな箇所のちょっとした修正や微調整だ。ちょうどアルバムの仕上げ作業の真っ只中だったから、できるだけ勢いを途切れさせたくなかった。日本で作業の続きができて本当に良かった。

Translated by Yuriko Banno

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