河合奈保子の楽曲から辿る、編曲家・大村雅朗の軌跡



田家:今日最後のお題、河合奈保子を知らない人にも聞いてほしい曲。84年6月発売のアルバム『Summer Delicacy』から「涼しい影」。

土屋:これは大村さんらしくないアレンジかなという気もして。アコースティック色がすごく強いんですけど、奈保子さんの丁寧に歌われる歌唱力をあえてフォーク調のアレンジに持ってきたところがすごく温かくて好きですね。

田家:あまり過剰な感じがないですもんね。

土屋:ないですよね。サビぐらいからゴーンとくるんですけど、音圧的には上がるけどその世界観は全然壊さないというところがありますよね。大村さんはたくさん書いて下さってますけど、奈保子さんの歌唱力というのが一番分かるのはこの曲なんじゃないかと思いますね。

田家:しかも松田聖子さんとの比較っていうのがすごくよく分かる曲ですね。

土屋:そうですね。聖子さんには歌えないでしょうと思いますね。聖子さんみたいな強さがあって、その後弱いみたいな部分は奈保子さんと全くの真逆なんですよね。聖子さんは女性としてはすごく強いけど、弱いところの売りにするというか。奈保子さんは女性らしさって実はあまりないけど、こういう不憫な曲を歌うとものすごく包容力があって、奈保子さんらしい感じだと思うんですよね。実はこの曲は来生たかおさんが先に歌われていた曲のカバーなんですよ。さっきの「夏の日の恋」もカバーですし。そういうことを当時のプロデューサーさんは奈保子さんになさるんですね。もしかしたらアーティスト・河合奈保子もカバーをさせるっていうのも何かの策略だったんじゃないかなと思いますけどね。

田家:最後に土屋信太郎さんはソワレさんとしてシャンソン歌手もおやりになってらっしゃるわけで、シャンソンと河合さんとの共通点ってのはどんなものがあるんでしょう。

土屋:まず僕がシャンソン歌手になったのは河合奈保子さんのおかげで。河合奈保子さんが1989年の11月に『ミュージックフェア』という番組出られたんですよ。それが越路吹雪特集だったんです。その時まで越路吹雪のこの字もシャンソンのシの字も知らなかったんですけど、越路さんがブラウン管に出てきた瞬間に「これだ」って落ちちゃったんですよ。だから共通点といったら、全く今のは答えになっていないんですが、僕の中では共通点はそこですね。

田家:河合奈保子さんは越路吹雪さんに対して惹かれるものがあったから歌ったっていうことなんですかね。

土屋:何もないですね。上月晃さんと和田アキ子さんの3人で歌ったんですよ。奈保子さん何かありますか?って聞かれたら「こうして今もなお越路吹雪さんの歌が残ってるのは本当に素晴らしいことだと思います」って言ってました。それで終わっちゃった。

田家:それが入り口になってたわけで。河合奈保子さんについては言い残すことはありませんか(笑)。

土屋:どうかいつまでも元気でいてください!

田家:わかりました(笑)。ありがとうございました。

土屋:ありがとうございました。

Rolling Stone Japan 編集部

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