河合奈保子の楽曲から辿る、編曲家・大村雅朗の軌跡



田家:82年12月発売10枚目のシングル「Invitation」。詞曲が竹内まりやさん。この曲は奈保子さんにとってはどのような曲ですか?

土屋:この前が「けんかをやめて」という曲だったんですけど、まりやさんということで全くテーマが違うんですね。最初にキーボードから始まって弦楽器が入って、ベースとオブリガードのストリングスとコーラスがだんだん積み重なっていくアレンジで、奈保子さんの可愛さとか世界観をものすごく大事に包み込んでいる。この曲は奈保子さんが初めて自分からシングルにして欲しいって言ったらしいんですよね。あまり奈保子さんはそういうことを言わないんです。自分の好きな曲はなんですか?って質問に対しても「全部大事な曲だから答えられんません」とおしゃってたんですけど、この曲は奈保子さんが歌いたいと言ったらしいです。

田家:土屋さんの『大村雅朗作品集』の解説を拝見して、この曲に関してフェミニンなアコースティックサウンドとお書きになっていましたよね。まさにそれですよね。正直、大村雅朗さんと河合奈保子さんの関係を今まであまり意識していなかったんです。この2枚組のアルバムで思いがけないものに出会ったような感じがありました。

土屋:今この曲を聴いて、同期の松田聖子さんの楽曲で大村さんがアレンジされた「SWEET MEMORIES」とアレンジの形は似ていると思ったんですけど、決してあの曲にはフェミニンな感じは感じないですよね。奈保子さんは自分の意思を持ってらっしゃる方だと思うんですけど、聖子さんとはまた自分の意思の形が違うと思うんです。そういう人がこういう優しい女の人の歌を歌うとハマるような。奈保子さんの性格的には媚びたところが全くないので。

田家:土屋さんは、河合奈保子さんのデビュー当時から、編曲が大村雅朗だという意識はおありになりましたか?

土屋:全然ないです。

田家:そうですよね。大村雅朗って名前で意識されるようになったのはいつごろからですか?

土屋:大村雅朗さんのアレンジの曲を聴くと、奈保子さんが持っているドメスティックな歌謡曲さは相当削られてるなと。例えば『SKY PARK』っていう LPがあるんですけど、全部アレンジが大村さんで。いわゆる70年代歌謡的雰囲気はないなというのは感じましたね。

田家:アルバムを聴いたときに大村雅朗って名前は意識されましたか?

土屋:まだ僕は小学生とかだったんで全然ないですよ(笑)。

田家:でも曲が変わったなってことははっきりお分かりになったわけでしょう?

土屋:かっこいいなと思いました。

田家:つまり大村雅朗再評価ってそれなんですよ。曲を実際に聞いたときに編曲が誰かっていうことじゃなくて、この曲いい曲だね、なんか前と変わったねってみんな覚えている。

土屋:そうですね。多分同じ方がずっとミックスもやってらっしゃるんだけど、それも違うんじゃないかってぐらいサウンドの構築の形は刺激がありましたね。

田家:気がつくと、あれもこれもみんな大村さんじゃないかということで2022年のブームになっている。ということで次は三つ目のお題をお願いしております。他のアイドルと違いを感じさせる曲。土屋さんが選ばれたのは、83年1月に発売になったアルバム『あるばむ』から「ささやかなイマジネーション」。

Rolling Stone Japan 編集部

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE