河合奈保子の楽曲から辿る、編曲家・大村雅朗の軌跡



田家:今日の5つ目のお題、アレンジの意外性や新鮮さに驚いた曲。土屋さんが選ばれたのが「ちょっぴりパッショネイト」。83年6月発売のアルバム『SKY PARK』の中に入っておりました。どんなところが意外性があったんですか。

土屋:筒美京平さんのメロディーのトリッキーなところを、さらに大村さんがメロディに絡めていくところですね。これは「エスカレーション」と同時発売だったんですけど、1曲目がこれなのですごく印象的でした。逆にすごく奈保子さんの歌唱力はこの辺から安定していくんですよね。どっしりしてくるというか、声もどんどん太くなってきて。このLPは全体的に音もデッドというか。

田家:音が太いですもんね。それからストリングスはとってもキラキラしてて、さっきおっしゃっていたフェミニンさがありますよね。

土屋:そうですよね。ちょっとロックな感じのギターのウィーンみたいな感じもこの曲は結構入ってきていて。歌詞の内容も結構大胆で、出だしから「Tシャツ一枚の胸で」ですからね。どういうことでしょうみたいなね(笑)。

田家:『SKY PARK』は、どういうアルバムだったんですか。

土屋:ここから奈保子さんのサイドの皆さんが、ニューミュージックの女性アーティストとのコラボを始めるんですよ。河合奈保子をアーティストとして育てていこうって雰囲気が見えてきた。片面が筒美京平さんで大村さんのサウンド、もう片面は石川優子さんが作ってらっしゃるんですけどテーマは夏ですね。キラキラした夏もあれば悲しい夏もあって、河合奈保子、20の夏を盛り上げようという感じで。松田聖子さんの『ユートピア』ってLPと発売日が一緒で、奈保子さんが2位だったんですよね。僕は聖子派、奈保子派って割とはっきり分かれていたような気がするんですよ。いわゆるアイドルファンって形の広く浅くというのではなくて、とにかく奈保子さんのファンは聖子さんを意識していた。だから当時、勝負かけてるなぁと思いましたね。

田家:松田聖子さんには松本隆さんという全体の方向性、パーソナリティを作り上げる人がいましたが、そういう方が河合奈保子さんにもいたんですか。

土屋:売野雅勇さんがプロデューサーとして入られた時期はあったんですけど、基本めちゃくちゃでしたね。82年の7月21日に『サマー・ヒロイン』ってアルバムが出るんですけど、そこまで本当に作家陣はもうめちゃくちゃで、なんとなくのテーマは作ろうとしてるんですけど、これじゃあアイドルファン以外は聞かないだろうなとなんとなく思っていました。そこから奈保子さんが変わってきたのはさっきの『あるばむ』っていうLPからですね。

田家:大村雅朗さんは松田聖子さんと河合奈保子さんの両方を手掛けていましたよね。でも全曲おやりになっているのは河合奈保子さんの先になるのかな。

土屋:へぇ~そうなんですか。大村さんのアレンジって本当に幅広いですからね。このLPに関しては幅広いんだけど、すごく聞きやすくてある意味統一感があるような気はしますよね。

Rolling Stone Japan 編集部

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