河合奈保子の楽曲から辿る、編曲家・大村雅朗の軌跡



土屋:奈保子さんはこの時19歳なんですけど、シンプルなアレンジで、いわゆるコードが鳴っているんですけど、和音のコードが最初のところが薄いんですよね。オブリガードとパーカッションの中で、奈保子さんにしか出せない世界観があって。この曲のテーマは男の人と女の人が一緒に暮らしているとなんとなく想像させるんだけど、そこに全く猥雑感がないというか。これほど下心が見えないラブソングって珍しいなと思って。

田家:他のアイドルの方にはそういうラブソングはあんまりないですか。

土屋:こういう言い方も変なんですけど、奈保子さんってお色気が全然ないディテールというか(笑)。ビジュアル的にはグラマーかいう印象があるかもしれないですけど、非常に清々しいというか。どんな歌を歌ってもいやらしさを感じさせない。ものすごく上手に表現しているいくらそういう挑発ソングを歌っても奈保子さんってどこかで清潔感があるんですよね。

田家:そういう清潔感を際立たせたのが大村さんのアレンジだったと。

土屋:だと思います。この歌詞もなんてことない内容なんですけど、大村さんが少しずつうるさくないような音で包み込んでいる感じがするんです。

田家:全然うるさくないですもんね。この『あるばむ』はA面5曲が竹内まりやさんで、B面5曲の詞曲が来生さん、お姉さんと弟さん。ギターが鈴木茂さん、松原正樹さん、今 剛さん。ドラムが青山純さん、村上 “ポンタ” 秀一さん、林立夫さん。いわゆるティン・パン・アレー、はっぴいえんど系のミュージシャンで達郎さん絡みのミュージシャンがここにドーンと入っているわけで。河合奈保子さんはそういう存在だったんだなって改めて思いました。

土屋:そもそも奈保子さん自身に音楽の素養がすごくあったんですよね。小学校からピアノをやっていて、中学校でトロンボーンをやって、ギターも弾くし、高校ではマンドリンをずっとやっていた。さっきの話じゃないけど奈保子さんもミュージシャンとして萌芽が芽生えた大きなきっかけはこの辺からだと思います。

田家:そこら辺が他のアイドルとちょっと違うものがあった。

土屋:はい。そもそもオーディションのときも自分の弾き語りでテープを出しているので。

田家:あ、そうなんですか!

土屋:そうなんですよ。ピアノの弾き語りで。

田家:太田裕美さんみたいな。

土屋:そうそう、お好きだったみたいですよ。いわゆる音感がおありになったので楽譜を見ながら「雨だれ」とかを弾いていたと言ってました。

田家:当時の河合奈保子さんのライバルって誰だったんですか。

土屋:我々からすると絶対松田聖子さんになってくるんですけど、不思議なもので聖子さんからはライバルを絶対に奈保子さんとは言わないんですよね。当時のアイドル人気投票なんかで81年82年の2年間ぐらいダントツの2トップだったときがあって、本当にアイドルとしては双璧で。レコードの売り上げは相当水をあけられてしまったんですけど。同期は聖子さん、柏原芳恵さん、岩崎良美さん、三原じゅん子さん、鹿取洋子さん、石坂智子さん。

田家:さて今日の4番目のお題、時間が経って改めて好きになった曲。

Rolling Stone Japan 編集部

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