真心ブラザーズが語る、デビュー32年目にして極めた自然体

ー7月にリリースした「天空パレード」もかなり音数が少ないなと思いました。よい意味でスカスカというか。



YO-KING:そうだった?(笑) そういうのを聴いているから、自分の中でそれが普通になっちゃってるんですよね。Bob Dylanの『John Wesley Harding』(1967年)とか『Nashville Skyline』(1969年)を最初に聴いたときはびっくりしましたけどね。でも、好きで何度も聴いていてあれが基準になっちゃうと、スカスカになっていって、その音楽のスカスカの部分から匂いがしてくる。

ー行間を読む、みたいなことでしょうか?

YO-KING:ああ~そうですね。それはもしかしたら、ジャケットの匂いかもしれないし、ピックの匂い、弦の匂い、スタジオの匂いかもしれないけど。もちろんそれは幻想なんだけども、“幻の匂い”がしてくるというか。耳で聴くんだけど、鼻でも聴くようになってくるというか(笑)。

ー鼻で聴くようになるってすごい境地ですね(笑)。

YO-KING:だから、レコードだとその魔法がかかるんです。やっぱりカビ臭くて匂うんですよね。あれが好きで。その匂いを嗅いだ状態で『Nashville Skyline』を聴く。それであれだけスカスカだと、そのスペースが匂いで満たされていくというか。いろいろと楽器が入ってみっちみちに音楽が入っちゃうと、その匂いが忍び込む余地がない。

ーだから敢えて空間を空けているわけですね。

YO-KING:そうです。あと、その分スペースがあるから、1つ1つの楽器の音が大きく録れるというか。サッカーで言うと、スペースがあると前にボールを出して、うわ~って走らせることができるじゃないですか?ないとそういうルーズボールが出せないから。

ー配信ライブでは、アルバムで桜井さん唯一の歌唱曲「こんぷろマインズ」を“問題作”とおっしゃってましたね。

桜井:ああ、あれはバイオリンが下手だっていうことなんですけど(笑)。あの曲には、歌の内容もそうなんですけど、普通にかっこよく演奏することを許さない何かがあって。得意なことで体裁を立てたら成り立たなくなっちゃうような曲なんですよね。どこかでズッコケてないといけないというか。

ーそこが、“ハロー妥協 愛の度量”っていう歌詞と結びついてるということですか。

桜井:そうかもしれないですね。妥協ゼロの音源をこの曲で作ってどうするんだっていう(笑)。ただ、この曲を書こうとした動機の部分に関しては、YO-KINGさんが書いた「不良」に近いものがあったと思うんです。「そんなにちゃんとしようとしなくても。正しいけどさ、それって面白い?」みたいな思いが、僕の場合はこういう風に出たという感じですね。

ーきっと、SNSで目にしたようなことからインスパイアされることもありますよね。

桜井:それももちろん1つの要素ではありますけど。なんとなく、学校のクラスで言うと委員長の力が強い時代な気がして。でも言ってることは正論だから、「あ、そうですよね」って。「先生に言うよ?」って言われたら嫌だし、「はーい」っていう。でも前に戻りゃあしないし、さあどうやって遊ぼうかっていう。答えは示していないですけど、「そんな気持ちで始めない?」という提案は曲でしたということかな。

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