ヴァンパイア・ウィークエンド日本最速インタビュー あらゆる対立を越えた先にあるもの

Photo by Michael Schmelling

通算5作目のニューアルバム『Only God Was Above Us』をリリースした、ヴァンパイア・ウィークエンド(Vampire Weekend)のインタビューが実現。バンドの中心人物、エズラ・クーニグが制作背景を大いに語ってくれた。

ヴァンパイア・ウィークエンドの5年ぶりのアルバムとなる『Only God Was Above Us』は、極めて自己言及的な作品だ。エズラ曰く“サイケデリックなガーシュイン”だという「Connect」ではデビュー・シングルだった「Mansard Roof」のドラム・リフが引用され、アブストラクト・ビートの始祖デヴィッド・アクセルロッドを意識したという「The Surfer」では、脱退した元メンバーのロスタム・バトマングリと共作した過去の楽曲を発展させている。オープニングを飾る「Ice Cream Piano Piano」では、エズラ・クーニグの祖母が吸血鬼伝説で知られるルーマニアからの移民だったことに触れているが、「Pravda」で歌われるように、その祖母の兄はUPI通信社のモスクワ駐在員だったという。 “Pravda”は“真実”を意味するロシア語であり、ソ連共産党の機関紙の名前でもあるが、その実態はプロパガンダであり、「“Pravda”に真実はない」と揶揄されたこともあった。そして本作もまた、こうした矛盾を内包していると言えるだろう。クラシカルでありながらモダン。ノイジーでありながらエレガント。二律背反する要素を同居させ、受け入れることを促すこのアルバムは、混迷を深める世界に届けられた、ヴァンパイア・ウィークエンドの新たなマスターピースだ。

1984年にニューヨークで生まれてすぐ、家族と一緒にニュージャージーにやってきたエズラ。高校を卒業し、ニューヨークの大学でヴァンパイア・ウィークエンドを結成した頃にはもう21世紀になっていた彼にとって、祖父母や両親が暮らした20世紀のニューヨークは、近くて遠い場所だったのかもしれない。そんなエズラが新作のジャケットに選んだのは、80年代の終わりにニュージャージーの解体工場に運ばれ、横倒しになったニューヨークの地下鉄の中で撮影された一枚の写真。国境は変化し、場所は消された。でも、カルチャーは存在し続けている――そう語る彼が伝えたかった、あらゆる対立(conflict)を越えた先にあるものとは何だったのだろう。内なる戦いを描いた静かな叫びのようなこのアルバムについて、エズラに話を聞いてみた。




バンドとの絆、日本滞在時のこと

―先日ハリー・スタイルズと一緒にプレミア・リーグを観戦している姿が目撃されていましたが、どういった経緯で観戦することになったのでしょう?

エズラ:2人ともチームとコネクションがあったんだ。ソニー・ミュージックのチェアマンでルートン・タウンFCのディレクターでもあるロブ・ストリンガーや、僕のマネジャーのイアンがチームに少し関わっていたことがあって。共通のコネクションを通じてかもしれないけれど、そこでハリーと会ったのは偶然だった。僕はちょうどロンドンでプレス活動をしていて、彼らからルートンのことはよく聞いていたし、誘われて行ったんだ。最近プレミア・リーグに昇格した、アメリカには存在しないだろう、小さいチームだ。そのチームが11,000人も集客して世界で一番有名なチームのマンチェスター・ユナイテッドFCを相手にしたんだ。いい試合だったよ!

―あなたと同じように細野晴臣さんの『HOSONO HOUSE』をフェイバリットに挙げるハリーとは、何か話したりしましたか?

エズラ:いや、とくに音楽について話す時間はなかった。ちょうど前作『Father of the Bride』(2019年)がリリースされた頃だったかな、偶然レストランで彼に会ったんだ。その時にアルバムのことを褒めてくれて。僕の中で、彼はとても謙虚で才能にあふれたアーティストだよ。


今年2月18日、ルートン・タウンの本拠地であるケニルワース・ロードでマンチェスター・ユナイテッド戦を観戦しているエズラ・クーニグとハリー・スタイルズ。試合は1-2でマンチェスターUが勝利(Photo by Catherine Ivill/Getty Images)

―今作はロンドンでも録音されているそうですが、あなたのパートナーのラシダ・ジョーンズが2021年の夏からApple TV+のドラマ『サイロ』の撮影をしていて、あなたも半年間ロンドンに滞在していたそうですね。その時にプロデューサーのアリエル・レヒトシェイドをロンドンに呼んだそうですが、アルバムの大部分をあなたとアリエルの2人で演奏しているのは、そういった理由もあったのでしょうか?

エズラ:僕らとアリエルは長い付き合いで、プロデューサーの彼と一番関わっているのが僕なんだ。ヴァンパイア・ウィークエンドにとってのアルバム制作は、スタジオ・プロジェクトのようなもの。バンド・メンバーとはいつも一緒だけど、『Contra』(2010年)から今まで、制作に柔軟性を持たせてくれることに心から感謝している。僕らは大体レコーディングから始めるから、みんなが全曲に参加するわけじゃないことは最初の段階でわかっているんだ。それを承知のうえで一緒にツアーを回ってくれる。アリエルと一緒に動きつつ、バンドとの絆を保つことができているのはすごくありがたいよ。

前回のインタビュー(2022年のフジロック出演前)で話してくれた通り、2022年の後半からはあなたのパートナーのラシダ・ジョーンズがApple TV+のドラマ『SUNNY』の撮影で日本に来ていて、あなたもしばらく滞在していたそうですね。日本でレコーディングした部分もあるそうですが、いつ頃、どのパートを録音したのでしょうか? 日本ではどんな風に過ごしていましたか?

エズラ:そうだね。ラシダが2022年に日本で撮影があったから、日本には6カ月くらい住んでいたんだ。息子は東京の学校に通っていたし、京都に行ったりもした。プロデューサーのアリエル・レヒトシェイドが日本に来て、一緒に制作もしたよ。当時はずっと曲のデモ制作をしていたかな。東京で彼と合流した時には、すべての曲は書き終わっていたから、アレンジをしたり、ちょっと修正をする程度だった。それから妻が仕事をしていた時、よく東宝スタジオに行っていたんだ。サム・ゲンデルが立川ステージガーデンでライブしているのも観たよ。

スティーヴ・レイシーも最近来てましたね。ぜひ立川でライブをやってください!

エズラ:ああ、すごくいい場所だと思ったよ。

―「日本滞在中にテリー・ライリーのラーガ・レッスンを受けた」というニュースがひとり歩きしてますが、先日BBCのインタビューで、新作に直接影響があったわけではないと話していましたよね。ただ、実際にはどのようなレッスンで、どんな風に刺激を受けましたか?

エズラ:まず、彼はすばらしい人物だ。僕らの音楽にはいろんな影響を与えていると思う。以前そう答えたのは、曲の仕上げにかなり時間を費やしたから、アルバム完成までに長い時間がかかっただけで、レッスンを受けた時には、もう曲は出来ていて仕上げの段階だったから。実は、彼が日本に住んでいるって知らなかったんだ! 日本滞在中、息子は学校で、妻はTVドラマの撮影に追われていて、僕は比較的自由だった。友達ができたり、知り合いに会ったりもしたけれど、それでも時間が十分にあったんだ。すると、アメリカの知人から「テリー・ライリーが日本に住んでいるんだから、もし時間があるなら連絡してみたら?」って言われて、「え?! 日本にいるの?」ってその時に知ったんだ(笑)。彼は郊外を拠点にしていて、ライブで東京に来たタイミングで何度か会った。その時にラーガのワークショップのことを教えてくれた。彼は生涯をかけてインドのボーカル・ミュージックを学んでいて、インドにコミュニティも持っている。鎌倉で月1回レッスンを開催していると聞いて、ラシダはすごく興味を持った。というのも、彼女はインドの音楽に強い関心があるんだ。彼女の母親が行っていたアシュラムのメディテーションが生活の一部だったから。でも、多忙の彼女にそんな余裕があるわけなく、レッスンには参加できなかった。すると、彼は「もし興味があるなら、プライベート・レッスンもできる」と親切にも提案してくれて、週末の合間に彼のアパートでレッスンを受けたんだ。簡単なものだったけれど、少しでも練習を体験できてよかったよ。

―前作は参加ミュージシャンの詳細が公開されておらず、アーティスト写真も含めて実質あなたのソロ・プロジェクトのようになっていたので、新作の1曲目「Ice Cream Piano」でメンバーのクリス・バイオとクリス・トムソンの2人が演奏していることや、アルバム全体を通しても半数の曲に参加していることが嬉しかったです。彼らが前作よりも多く録音に参加することは意識していたのでしょうか?

エズラ:ああ、その通り。いろんな場所に住んでいたとはいえ、ずっとロサンゼルスを拠点にしていた。でも『Father of the Bride』は、そういう意味で転換点だったと思う。「違うメンバーと制作しよう」と思ったんだ。僕は、プロデューサーと組んだり、バンドでやったり、ファンのみんなにいろんなモードのヴァンパイア・ウィークエンドを披露したいと常々思っている。今回のアルバムはその中間だといえる。2人が参加してくれたことは、僕にとって重要なことだった。たとえば「Gen-X Cops」は、CT(クリス・トムソン)と僕で作り始めた。それは初めての試みで、彼のアパートでファースト・デモを作ったんだ。ずっとアルバムに入れたいと思っていたけれど、他の曲もスタジオで同時に制作しているし、アリエルとの制作も同時進行で、書き直しに時間がかかっちゃって。「Classical」は僕が書いたけれど、他の2人とジャムをして、CTが曲のグルーヴを思いついたんだ。それが気に入って、アリエルに聴かせた。全体のプロセスを通して、大抵の場合は、僕とアリエルでレコーディングに集中して進めるけれど、そうやって2人きりで部屋にこもったり、ジャムをしたり、時には、エネルギーの向かうままに身を任せたり......ひとつのやり方に制限せず、いろんな方法を持つことが僕には大事なんだ。このアルバムでは2人が生み出すライブのエネルギーと、アリエルの緻密な仕事の両方のバランスを保ちたかった。うまくバランスをとれたと思っている。


左からエズラ・クーニグ、クリス・バイオ、クリス・トムソン(Photo by Michael Schmelling)

Translated by Yuriko Banno, Natsumi Ueda

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