ヴァンパイア・ウィークエンド日本最速インタビュー あらゆる対立を越えた先にあるもの

ピアノと戦争

前回のインタビューで、ラシダの母親のペギー・リプトンのピアノの話をしたと思うのですが……。

エズラ:ああ! インタビューのことは覚えているよ。

その写真をよく見ると、ピアノの上にアイスクリームのカップのようなものが置いてあります。「Ice Cream Piano」のタイトルとは、何か関係があるのでしょうか?

エズラ:ラシダに確かめたほうがいいと思うけれど、きっとこれはカッテージ・チーズだね。

―(笑)

エズラ:僕が想像するに、60年代のペギーのような女性が食べているものとしたらね(笑)。

―アイスクリームではないと(笑)。

エズラ:きっとカッテージ・チーズだと思う、多分。残念ながらタイトルとは関係はない(笑)。でも、その質問は気に入った!

―「Ice Cream Piano」というタイトルの由来は何だったのでしょう?

エズラ:これは、ちょっとした言葉遊びなんだ。イタリア語だと思うけれど、演奏で“ピアノ”という言葉が使われる。

―“ピアニッシモ”の“ピアノ”のことですね。

エズラ:そう。“ピアノ”は“静かに弾く”という意味だ。歌詞を歌う時に、僕は“I scream piano”という意味合いを込めている。つまり、パラドックスだ。“I softly reach the high note”——このフレーズもそう。普通ハイトーンを出すには叫ばなきゃならないだろう? これはコントロールの領域を超えた“願い”のパラドックスなんだ。強さと弱さを同時に表現している。あと、“I scream”と “Ice Cream”との掛け言葉を見つけた時は、かなりアガった(笑)。



―本作には"War"というフレーズが繰り返し登場します。歌詞は2019~2020年頃に書かれたそうですが、結果的に現在の社会情勢を反映していることについてはどう思いますか?

エズラ:そのことには触れるべきだね。ロシアがウクライナに侵攻したから(ロシア語で“真実”を意味する)「Pravda」という曲を書いたとは思ってほしくないんだ。僕らはみんな、人生でさまざまな衝突を経験していて、“War” は“衝突”の行き着く先だと思っている。戦争は悲しいことだ。けれど、戦争や衝突は永遠のテーマで、今に始まったことじゃない。長い歴史の中で戦争や衝突という言葉は、いつだってメタファーとして使えるだろう。5年前にも数えきれないほどの戦争や衝突があって、残念ながら衝突がない時代はない。このテーマは古くから語られていて、有名なヒンドゥー教の聖典の1つ『バガヴァッド・ギーター』は戦場が舞台で、戦中にクリシュナがアルジュナに導きを求めるというもの。こういった聖典の解釈は人によってさまざまで、ひとつの解釈を何度も目にすることもある。ジョージ・ハリスンはかつて“戦場は自らの内にある”と言っていた。つまり、戦争と衝突は人間の内にあって、永遠のテーマだと思うんだ。



―「Classical」の歌詞を読んで、個人的には三島由紀夫の小説『豊饒の海』の第三部である「暁の寺」を連想しました。前作には第一部『春の雪』に由来する「Spring Snow」という曲が収録されていましたし……。

エズラ:ちょっと確認してもいい?「暁の寺」は金閣寺を燃やした人の話だっけ?

―それは「金閣寺」ですね。「暁の寺」は、タイのお寺が由来になっています。

エズラ:そうだった。

―『豊饒の海』はヴァンパイア・ウィークエンドの初期3作に影響を与えたイーヴリン・ウォーの小説『ブライヅヘッドふたたび』とも共通点が多いと思うのですが、あなたの作品にどのような影響を与えていますか?

エズラ:すばらしい質問だね。たしかに、ウォーの小説に読み耽っていた時、三島の小説も読んでいたんだ。たしか、22~23歳の頃だ。作曲中に意識していたわけではないにしろ、それらの小説からは大きな影響を受けたよ。歳を重ねた今、それらを読み返したらきっと新しい読み方ができると思う。たとえば、輪廻についての考えが根底に書かれていた。若い頃は、それよりもキャラクターやセッティングに興味があったけれど、今はそういった精神のあり方に興味があるんだ。

Translated by Yuriko Banno, Natsumi Ueda

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE