ヴァンパイア・ウィークエンド日本最速インタビュー あらゆる対立を越えた先にあるもの

私たちの上には神しかいなかった

―本作の楽曲はまさにクラシカルなヴァンパイア・ウィークエンドのスタイルでありながら、ポスト・プロダクションでアヴァンギャルドなサウンドになっていて、ミックスを手掛けたデイヴ・フリッドマンの貢献も大きいのではないかと思います。アリエルは何度か彼と組んだことがありますが、今回はなぜ彼を指名したのでしょう? 結果、どのような効果が生まれたと思いますか?

エズラ:今作はヘヴィでノイジー、前作よりディストーションがかかったアヴァンギャルドなアルバムにしようと最初から決めていて、制作を進めながらそのバランスを探っていった。ずっと僕はデイヴ・フリッドマンのファンで、今回はアリエルが彼を指名した。ディストーションとノイズをミックスさせつつ、レコードとして鑑賞できるバランスを理解しているのは彼くらいだと思ったんだろう。もちろん僕も同意だ。彼の一番クラシックなミックスを聴いた時、それこそまさに探し求めていたものだったから。アグレッシヴでありながら鑑賞できる、強くて繊細な音楽。彼はこのアルバムを重厚でノイジーで、さらにクリアで鑑賞できるものへ昇華させてくれた。すべて理解している彼は、まさにパーフェクトだった。

―ヘヴィでノイジーなサウンドにしたかったのはどうしてでしょう?

エズラ:その質問にうまく答えられるかわからないな...... ただ惹かれたんだ。そうだな、ちゃんと答えるとすれば、それはヴァンパイア・ウィークエンドにとって新しい領域だった。自分でも信じられないけれど、40歳を目前に5作目のアルバムをリリースする。僕らはずっとインディーやオルタナティブ・バンドと言われつつ、クラシックなオルタナティブ・ミュージックにはほとんど触れてこなかった。だから、これは新しいと思ったんだ。あとはまあ、無意識的に惹かれたんだ。前作はスムースなサウンドをやったから、強いノイズをやりたかったんだと思う。新鮮だったし、曲にもマッチしていると思った。スタジオで何度も”hard”という言葉を使った。この”hard”という言葉は「ハードロック」や「固さ」「自信」というイメージを連想させるかもしれない。でも、静かな曲もハードになりうる。結局のところは、惹かれたっていうだけなんだけれど。

―ウィル・カンゾネリが手掛けたオーケストラル・アレンジも印象的ですが、彼はもともとキーボード奏者で、本格的にオーケストラル・アレンジを手掛けたのは初めてではないかと思います。彼があなたやアリエルと共同で手掛けたオーケストラル・アレンジはどのように進められたのでしょう?

エズラ:ウィルはライブでもキーボードを演奏してくれている。彼とはアリエルを通して知り合ったんだ、2人は昔からの仲だから。まず、僕とアリエルはMIDIのハイクオリティのオーケストラ・サンプルを使ってモックアップを作った。それをウィルがオーケストラが実際に演奏できるものへと翻訳した。たとえば、「チェロはここまで低く弾けない」とか、そういった現実的なことを彼がチェックしてくれたんだ。そして、彼がオーケストラを指揮した。無謀な部分もあるMIDIのアレンジメントを、オーケストラが演奏できる音楽に書き換えてくれたのが彼だ。


Photo by Michael Schmelling

―先行シングルだった「Capricorn」の“やぎ座/君の生まれた年は/すぐに終わって/次の年は君のものじゃなかった”という歌詞は、誰か特定の人、たとえば(諸説ありますが)12月25日生まれのイエス・キリストなどを指しているのでしょうか? そうでないとしたら、どんな感情が込められているのでしょう?

エズラ:僕のマネジャーが、まさに今の質問と同じセオリーをネットで見つけておもしろいと思っていたんだ。実際のところ、意図していたわけじゃない。まあ、自分でも何を意図して書いているかわかっていないこともあるから、もしかしたら正しいのかもしれないけれど(笑)。ただ、最初に書き始めた時は、機会を失った時の感情について考えていた。世代間の失望もそうだ。このことを考える時にいつも思い浮かぶのが、ニュージャージーで育った僕にとって思い入れのあるTVドラマ『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』。主人公のトニーが、自分はアメリカでマフィアが結成された当初からいなかったことに対して失望を語るシーンがあるんだ……。

それはそうとして、生まれ年に愛着を持つことについて考えていた。中にはユーザーネームにしたりナンバープレートに使ったりする人もいるだろう? この間、ちょうど友人のバリスタが生まれ年をコーヒースタンドの名前に使っていたんだ。人によっては、生まれ年をすごく大切にしている。じゃあ、あと数日で年が終わる頃に生まれたとしたら? 愛着のある年がすぐに終わってしまうとしたら? そこにメタファーを見いだした。占星術に詳しいわけじゃないから、年の瀬の星座が何か知らなくて、調べたらやぎ座だった。12月31日生まれのやぎ座の人は、次の日にはもう愛着のある生まれ年ではなくなっている……そんなことを曲を書いている時に考えていたんだ。それに、31日がやぎ座(Capricorn)で助かったよ。“corn”で韻を踏むワードがたくさんあるからね。もし射手座(Sagittarius)とかだったら曲は書けなかっただろうな(笑)。とにかく、これが当初考えていたことだった。でも、マネジャーから“キリスト説”を聞いた時、 “そりゃあ、一番有名なやぎ座の人といえばキリストだろう”程度にしか思っていなかったけれど、「待てよ、歌詞は合っているのか?」って気になったんだ。そうしたら、2つ目のバースは “孤独で傷ついて/でも最高潮の時に”で始まるから「ああ……確かに」って思ったよ(笑)。



―「Mary Boone」ではソウル・II・ソウルの「Back To Life」のビートをサンプリングしていますね。このビートをプログラミングしたのは、実は日本人の屋敷豪太さんだそうですが……。

エズラ:そうなの?! 知らなかった!

―どうしてこのビートをサンプリングしようと思ったのでしょう? 前作で細野晴臣さんの「Talking」をサンプリングした時のように、ソウル・II・ソウルのメンバーともコンタクトを取ったりしましたか?

エズラ:これはマネジメントを通してだったから、直接のコンタクトはなかった。そのビートはおそらく200回くらい使われてるだろう? だから、弁護士も「はいはい、どうぞ」って感じだったと思う。「Mary Boone」のテンポをどうするか考えていて、ドラムを目立たせたいと思っていた。確か、アリエルがそのビートを提案したんだ。最初はそのビートは有名すぎるからヴァンパイア・ウィークエンドには合わないと思っていた。でも、この曲はほとんどがドラム不在で、だからこそドラムの影響は大きい。それで、「もしかして、誰もが知っている心地良いクラシックなビートこそがふさわしいんじゃないか」と思い始めた。もちろん、自分たちでドラム・サウンドをレコーディングするか話し合ったけれど、このビートを使うことが正しい気がして、コンタクトをとった。きっとうまくいくと思ったんだ。




―この曲の後半では、時祷書(Book of Hours)やロシアのイコン(Russian Icons)、安藤忠雄の設計した教会(Ando Church)など、世界中の宗教的なアートが羅列されています。メアリー・ブーンは現代アートのコレクターですが、どうしてこの曲を「Mary Boone」というタイトルにしたのでしょう?

エズラ:そのブリッジは、このアルバムで最後に書いた歌詞だよ。「Mary Boone」のアイディアはずっとあって、この80年代のニューヨークのダウンタウンの雰囲気も、夢を求めてやってきた登場人物が有名なギャラリーを訪れるストーリーも気に入っていた。このブリッジはしばらく寝かせていたんだ。それからしばらく経って、何か付け加えようと思った。その中でも、ニューヨークの小さなアート・シーンが宗教的なものに反転していくアイディアがいいと思ったんだ。そうだな...... 今思い浮かぶままに話すよ。音楽を含めアートにはビジネスが存在する。ギャラリーにはビジネスを動かすヒエラルキーがあって、僕は「一体何のためのアートなのか? すべてはビジネスのためで、金や競争や名誉のため? それとも、別の側面があるのか?」という問いが浮かんで、その別の側面が存在するのかどうかわからない時期があった。一方で、野心と資本で動くニューヨークのアート・シーンが、対極のスピリチュアルな宗教美術を取り込んで調和していく様がおもしろいと思った。この曲の人物は、単に成功したいだけじゃない。メアリー・ブーンにアートに敬意をもってほしいと思っている。それは彼らが、神や神々しい存在とつながりたいと望んでいるから。この歌詞を書き終えたのは、新聞の見出し(※)から取ったアルバムのタイトル『Only God Was Above Us』をつけた後で、パズルの最後のピースがはまったように、考えて続けていたタイトルの意味が腑に落ちた感覚があった。「それは宗教美術なんだ」って。

※1988年5月1日付、機体の屋根の一部が剥がれ落ち、乗務員1名が機外へ飛ばされ死亡した「アロハ航空243便航空機事故」を報じたもの。新聞の見出しとなった「私たちの上には神しかいなかった」という生存者の証言がタイトルに採用された

Translated by Yuriko Banno, Natsumi Ueda

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