ヴァンパイア・ウィークエンド日本最速インタビュー あらゆる対立を越えた先にあるもの

この時代を受け入れ、愛するために

―アルバムの最後の曲は「Hope」というタイトルですが、歌詞にはむしろ“Hopeless"なフレーズが並んでいます。何度も繰り返される“I hope you let it go”という言葉で、あなたは何を伝えようと思ったのでしょう?

エズラ:これもずっと考えていたことだった。イングランドで何人かのジャーナリストと話した時、アルバムを気に入った人でさえ「とても空虚でダークなアルバム」だと言った。僕はそうじゃなく、楽観的に捉えているんだ。たとえば、“giving-up”について書いた曲がある。英語だと、 “giving-up”には“悪いこと”という否定的なコノテーションが存在する。“あきらめたら負け”とかね。でも、“giving-up”にはポジティブな側面もある。たとえば、中毒の人が酒やドラッグを断つことができたら、それは祝福すべきことだ。でも、たとえば子供が学校で「あきらめる」と口にすれば「努力しろ」って言われるだろう。そういった“giving-up”や“hope”が持っている二重の意味について考えていたんだ。

「Hope」の中には、いろんなシチュエーションが描かれている。ネガティブからニュートラル、さらにはポジティブな状況も。この解釈は僕らを解放してくれると思っている。ほら、一方のスペクトラムから見れば負けていても、もう一方からみれば実は勝っていて、さらには同じになるっていう“蹄鉄理論(Horseshoe theory)”ってあるだろう? “surrender”も同じで、ある人は“絶対に降伏しない”ことを良しとするけれど、現実を “諦める”ことは“受け入れる”ことでもあって、僕はポジティブに捉えている。「Hope」は、“手放すこと”について歌っている。このアイディアは、若い頃は受け入れ難いし、成功している人でも手放すすべを知らずに苦しんでいる人もいる。これは突き詰めると、勝ち目のない敵には降伏することがある意味では勝つことなのかもしれないという考えに行き着く。“hope”という言葉は興味深い。「自分の大切な人に何を望む?」と聞けば、大抵は「その人々の成功や幸せを願う」という答えが返ってくるだろう。でも、もし望みをたった1つに絞れと言われれば、それは「どんな人生が待ち構えていようと、流れに身を任せること」だと思うんだ。特定の望みに囚われることは、結果的に苦しむことになる。これは大きなテーマで、長い曲で、たくさんのヴァースがある。僕は楽観的な曲だと思っているし、アルバムの最後はそう締めくくるべきだと思っている。

デヴェンドラ・バンハートが細野晴臣さんに影響を受けた曲を書いていて、その中に“しかたがない”という日本語の歌詞が出てくるんですが、それがさきほどの「Hope」の話にも通じるのかなと思いました。

エズラ:僕も“しかたがない”(It is what it is)というフレーズはよく使うし、それもさっきの“受け入れる”につながっていると思う。日本ではどうかわからないけれど、最近アメリカではマルクス・アウレリウスのストイシズムが再注目されているんだ。どうしてストイシズムが話題になっているのかは、なんとなく想像がつく。それは、政治、カルチャー、テクノロジー、あらゆる面で人々は現代に失望しているから。若い世代でさえ、「もしみんながソーシャルメディアをやめるならやめたい」と言っている。ただ、願ったところでどうにもならない。つまり、今の時代の大きなテーマは“失望”なんだ。中には、失望を正当化しようと修正したり手を尽くす人もいるけれど、結局はうまくいかない。そんな時代に残された選択肢はというと、この時代に生まれたことを「しかたがない」と、ただ受け入れること。その上には、ニーチェが提唱した運命愛(amor fati)—―この世を受け入れるだけではなく、それを愛するということ—―の次元が存在する。ただ、この次元に到達するのは難しい。到達できているとは言えないけれど、辿り着くべき場所だと僕は思っている。「しかたがない」と受け入れることは“運命愛”に向かうための出発地点だと思っているんだ。



―アルバムのジャケットは、ニュージャージーにある解体工場で撮影されたニューヨークの地下鉄の写真だそうですが、本作にもニューヨークにまつわる歌詞が数多く登場します。あなたはニュージャージーからニューヨークに来て青春時代を過ごし、現在はロサンゼルスに住んでいるわけですが、ニューヨーク時代を振り返ってどう思いますか? どうして今、ニューヨークのことを歌おうと思ったのでしょう?

エズラ:そうだね。いうなれば、20世紀のニューヨークだ。それは僕にとってのニューヨークで、2024年の今のニューヨークとは縁がない。過去を遡るような感覚があったよ。僕も歳を重ねて、両親も歳をとって、新しい世代が来て、古い世代は去っていく。今の僕が過去を追憶するのは自然なこと。それに、20世紀のニューヨークは僕にとっての遺産なんだ。僕の家族は、もはや存在しない場所からアメリカに移住してきた。国境は変化し、場所は消された。でも、カルチャーは存在し続けている。僕の祖父母は、20世紀のニューヨークのメルティングポットで育ってきた。その世代の人々が何を大切にして、何を僕の両親に語り継いでいったのか—―それこそが20世紀のニューヨークの遺産。僕はそれにずっと魅了されている。このアルバムでは、その時代や歴史のレイヤーを感じられると思う。それに、今ニューヨークを離れているからこそ、一層惹かれているのかもしれない。その時代のニューヨークは、僕にとって心の拠り所なんだ。




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Translated by Yuriko Banno, Natsumi Ueda

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