2020年代の希望のありか:後戻りできない激動の10年を越えて

2017年のコーチェラ、ケンドリック・ラマーのステージ終演後に映されたのは「結束」の2文字だった。(Photo by Kei Wakabayashi)


グローバルポップの到来

日本がグローバルな感受性に早くキャッチアップしたほうがいいと思うのは、2010年代が、音楽のグローバル化が本当の意味で本格化した10年だったからです。世界的DJであるディプロは「これまで真の意味でのグローバルポップというものは存在しなかった」とかつて言っていましたが、2010年代はヒップホップ(トラップ)やレゲトンといったみんなの根っことなる共通言語(Root Language)が世界化し、そのリズムやサウンドの上で、世界中の誰もが自分の声で表現することができるようになり、その結果としてナイジェリアのアフロポップの歌手が一気にグローバルスターになったり、BTS88risingといったアジア人が世界的に注目を集めたり、中南米のシンガーがグローバルで受容されたりといったことが起きました。世界のトップチャートに初めて世界中からの音楽が含まれるようになったんです。ディプロが語ったグローバルポップが初めて実現したんですね。これはとてもポジティブなことだと自分は思っています。


“K-POPはいかにして世界制覇を成し遂げたのか?”より、BTSのパフォーマンス写真(Photo by Jeff Kravitz/FilmMagic)

アジアで言えば、BTSがビルボード1位を獲得したのが大きなニュースになりましたが、2010年頃にK-POPを熱心に聴いていたことがあったんですが、その頃からすでに韓国勢がアメリカを制覇するのは時間の問題だという感じはあったんです。というのも、少女時代からBIGBANGから2NE1からBLACKPINKにいたるまで、韓国のレーベルは、コケてもコケても執拗に新しい弾を繰り出しては、着実に地盤を拡張し続けてきたからです。最初に欧米の壁を打ち破ったのがPSYだったのはさすがに予想外でしたけど(笑)、あれが単なるまぐれ当たりではなく、地道な努力と、ねちっこい戦略性のなかで起きたことだったことは、おそらくK-POPファンの方だったら理解できたと思います。そこからBTSまで、結構時間がかかったとも言えますけど、ああやって結果が出てみると、その間、時間を無駄にすることなくひたすら前に進んできてたんだなと思えます。

その前提条件として、やっぱりヒップホップにきちんと時間をかけて対応してきたのは大きいと思います。BLACKPINKがコーチェラに出ているのを配信で見ましたけれど、彼女たちのファッションも立ち居振る舞いは、どこにでもいそうなアジアンアメリカンと変わらないんですね。そのほかにも「#MeToo」的な流れのなかで民族的なダイバーシティへの意識が高まったことなども受けてアジア人がアジア人として声をあげることができるようになり、同時にお客さんの側にもそれを受け入れるコンテクストが揃ったといったことも大きかったんだろうと思います。


ボーダーレスミュージシャンの新世代

『WIRED』日本版でナイジェリアの特集(2017年VOL.29「ワイアード、アフリカにいく」)を組んだ時に、現地を取材した編集部員が言っていたのは、インターネットの普及によって、海外で学んでいた人たちが初めて故郷に戻って仕事ができる環境ができたということです。それまでは、例えばアフリカからヨーロッパに留学に行ったとしても故郷に戻って働くというオプションがなかったんです。ところがインターネットがそれを変えたそうなんです。インターネットの登場によって、ナイジェリアにいながらロンドンやニューヨークの仕事を受けることも可能になったんですね。

ナイジェリアのアーティストで、2019年にアルバム『A Good Time』を出したダビド(Davido)は、たしか生まれがアトランタです。移民の2世なのでアトランタの音楽シーンのなかで育ったんですが、そういう人がいまであればナイジェリアとアトランタを行き来しながらふたつのシーンをつなぐ役割を果たすことができるわけです。故郷のナイジェリアのシーンは、そうした人たちから最新の知見や海を超えたネットワークを授かることができますし、それをテコにして、いきなりローカルなミュージシャンがグローバルシーンに参入できるようになったんです。



先にお話したディプロが偉かったのは、率先してアフリカやアジアに飛んで「花粉を運ぶ人」の役割を担っていたところです。そうした存在がいたからこそBTSもいるわけですし、J・バルヴィン、ロサリア、カミラ・カベロみたいなラテン系アーティスト──もともとアメリカにはラテン系が多いというのもありますが──が全世界的にヒットし、ダビドやWizkid、Burna Boyといったアフリカ勢の活況もある。ケンドリック・ラマーがディレクションした『ブラックパンサー』サントラや、ビヨンセが仕切った『ライオン・キング』のサントラは、アメリカのブラックミュージックとアフリカのブラックミュージックが交錯するスリリングなもので、そうした試みを経て、ますます音楽は世界化・流動化していくことになるんじゃないかと思います。

インディロックの世界でも日本オリジンのミツキや、フィリピンオリジンのジェイ・ソム、カメルーンオリジンのヴァガボンのようにアジアやアフリカにルーツを持つ女性アーティストが活躍していて、あらゆるジャンルでそうした傾向は進んでいます。まさに「こんな世界が見たかった」と言いたくなるような光景です。今後は日本でも、そうした動きが可視化されていけばメインストリームにももっとダイバーシティが生まれて、そこにミツキやセン・モリモトのようなアメリカ在住の日系人や、スーパーオーガニズムのオロノみたいに日本を飛び出して海外で活躍している人が自然とリンクするようになったら面白いことになりそうです。

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