2020年代の希望のありか:後戻りできない激動の10年を越えて

2017年のコーチェラ、ケンドリック・ラマーのステージ終演後に映されたのは「結束」の2文字だった。(Photo by Kei Wakabayashi)


ロックは終わり、ヒップホップが真ん中に

2017年にコーチェラを現地で観たんですけど、そこで何より驚いたのは、誰もレディオヘッドなんか観てないことでした(笑)。いや、まあ、「誰も」というと語弊があるんですけど、基本ロック系のステージはオーディエンスがオッサンばっかりなんです。その一方で、トラヴィス・スコットやフューチャーのステージとなるととんでもない混み具合で、しかもオーディエンスが圧倒的に若い。そんでもって、みんなで合唱してるんですね。ヒップホップって合唱するものだと思ってなかったので驚いちゃったんですが、みんな普通にライムを諳んじてるんです。かつてロックがいたポジションを、今は完全にヒップホップが占めていて、音楽カルチャーの揺るぎない柱になっているということを実感した次第で、残念な言い方をするなら、ロックはすっかりオワコンなんですよね。薄々そうじゃないかとは思ってたんですけど「ああ、やっぱり」って感じでした。




コーチェラの光景。写真上はヘッドライナーを務めたケンドリック・ラマーのステージ。(Photo by Kei Wakabayashi)

日本でもヒップホップは着実に広がっているんだろうとは思いますけど、それがメインストリームのど真ん中なんだって実感できている人はまだそんなに多くないですよね。同年代の人なんかにヒップホップの話をすると、大方の人が、それを音楽ジャンルだと思ってるんです。もちろん音楽ジャンルなんですけど、でもかつて「ロック」って言ったとき、それが指し示していたのは音楽ジャンルだけのことじゃなかったじゃないですか。そこにはもっと広義な意味があって、それは思想や生き方やアティチュードを抱合していたわけですよね。同じようにいま海外で「ヒップホップ」と言ったとき、それが指すのは音楽ジャンルではなくて、同じように思想や態度が含まれているんです。これはとても重要なことで、メインストリームをなしているカルチャーが入れ替わったということは、時代精神をつくりあげている思想そのものが変わってしまっているということなので、そこを見誤るととても頓珍漢なことになるんですね。

政治闘争のBGMとしてのロックミュージックというのはある時期まではアクチュアルのものとしてあったんだろうとは思うんですが、いま、それが例えばケンドリック・ラマーとかに変わっちゃっているとしたら闘争の基軸も、リズム感も、メッセージも、すべてがこれまでと違ってきちゃうわけです。というのも、ロックの背後にはつねにどこか左翼思想が貼り付いてきたかと思うんですが、ヒップホップの面白さは、従来の右翼左翼のくくりではまったく整理できない内容を、実はもっているところなんです。


右翼・左翼の対立は失効した?

人種差別をめぐる闘争という部分では左翼的な政治観と同調するところもあるんですが、その一方で、その価値観の基盤をなしているのは非常に保守的な家族主義や地域主義であったりもします。さらに経済というかお金儲けについても非常に貪欲で、アントレプレナーシップはとても重視されます。シリコンバレーの大物VCのベン・ホロヴィッツはテック業界きってのヒップホップ好きとして知られていますが、彼はビジネスマンがヒップホップに学ぶことはたくさんあると言います。

実際、お金やビジネスをめぐる苦難や苦闘といった主題はヒップホップではしょっちゅう扱われるものです。逆にロックは「経済」というものとちゃんと向き合ってこなくて、お金儲けをテーマにした歌は極端に少ない。これはちょうど左翼が、経済あるいは商売というものにとことん疎いという傾向と完全に符号するわけです。ヒップホップは右か左かという対立を、よくわからないやり方で無効化しちゃうところがあるんです。


“ケンドリック・ラマーが語る、トランプ政権下の社会に変化をもたらすのは「自分第一主義」”より(Photo by Twocoms / Shutterstock.com)

いまの日本は、右翼左翼の古い基軸のなかでひたすら泥仕合を演じているように見えますが、ヒップホップがデフォルトの感覚からしたら、それ自体がもうめちゃくちゃ古い感じにしか見えないんだと思うんですね。これは人に聞いた話ですが、いまの若者のなかでは「左翼」の方が「保守」とみなされているというんです。昔の考えに固執した人たちにしか見えていないということだと思うんですが、ロックが体現してきた反体制的な身振りが、時代の変化に対応できていない古い世代のものにしか見えなくなっているということと、それもまた符号するんだと思います。

ヒップホップを日常的に聴いている世界の若い世代が怒っていたとしても、それがこれまでの「怒れる若者」と微妙に違って感じられることの理由のひとつに、もしかしたらヒップホップという断層があるんじゃないかと思うんです。その感覚は日本にはまったくインストールされていないので、その差異やズレは、今後ますます大きくなっていくんじゃないかという気がするんです。個人的には早くアップデートした方がいいと思うんですが。

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