ビョークが語る「きのこアルバム」の真意、アイスランドのジェンダー平等と環境問題

ビョーク(Photo by Viðar Logi)

2023年3月に来日公演も決定しているアイスランドの国民的シンガー、ビョーク(Björk)の最新作『Fossora』が9月30日に発表された。通算10作目となるニューアルバムの発売を前に、ローリングストーン誌は母国にいるビョークにインタビューを実施。ビョークは『Fossora』のコンセプトやデビュー当時のこと、さらには最大の関心事である環境問題や、小国アイスランドが世界の模範的な存在となるまでの道のりについて、事実と自身の見解を交えながら話してくれた。

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いざビョークにインタビューをするとなっても、いったい何を質問すればいいのだろう? ビョークというアーティストは独創力あふれる“灯台”のような存在で、いままで多くのアーティストが彼女の光に導かれてきた。目眩くサウンドが織りなすディスコグラフィーをたどりながら、その神秘的な声が持つ響きと思考のプロセスについて本人の口から語ってもらうのはどうだろう? アイスランドの首都レイキャビクのパンクシーンから出発し、アバンギャルドなサウンドとビジュアルを代表する世界的なアーティストへと成長するまでの道のりを語ってもらうのも悪くない。これほどまでに革新的で実験的な音楽を作りながらも音楽シーンのメインストリームで成功をつかむことができた理由も知りたいし、ミシェル・ゴンドリー監督が手がけた「Human Behavior」や「Army of Me」、「Bachelorette」といった珠玉のMVの撮影の舞台裏についてもぜひ訊いてみたいところだ。

映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000年)の撮影現場でのエピソードや、劇中で魅せた迫真の演技の秘密に迫るのもいいかもしれない——同作の監督を務めたラース・フォン・トリアーは、後日セクハラで訴えられたのだが。ニューヨーク近代美術館をはじめ、世界各地の美術館で行われた展覧会について、ビョーク本人に語ってもらうのもいいだろう。

両親から受け継いだ社会と環境に対するアウェアネスや、彼女が支持するさまざまな独立運動についてじっくり語ってもらうこともできる。ビョークに訊きたいことは山ほどある。でも、とにかくいまは時間が足りない。なぜなら、5年ぶりに彼女のニューアルバムが発表されるのだから。

とはいっても、ビョークほどのアーティストとのインタビューがニューアルバムの話だけで終わるはずがない。彼女は、エンターテイナーとしての役割をろくに果たすことができない、そこらの有名人とは一味も二味も違う。ビョークは豊かな歴史を持つアーティストだ。アーティストとしての唯一無二のレガシーがあるからこそ、彼女はエッジやニュアンスに富んだ存在感を確立することができた。それは、奥深くも多様性に満ちた彼女の作品を映し出すものでもある。

ローリングストーン誌は、8月の終わりにビョークのインタビューを行った。ここでは、その内容をお届けする。


ローリングストーン誌(スペイン版)デジタルカバー
Photo by Viðar Logi



─ニューアルバム『Fossora』からは、ご自身の音楽や家族のルーツといったものが垣間見られるそうですね。

ビョーク:パンデミックを機にアイスランドに帰国したのですが、とても楽しい時間を過ごすことができました。近所のカフェやプールに歩いて行ったり、家族や友人に会ったり、地元のミュージシャンたちと一緒に仕事をしたりと、この3年間は本当に楽しかったです。

─アイスランドでは、パンデミック中もそこまで厳格な外出禁止措置が取られなかったと聞いています。

ビョーク:そうなんです。アイスランドのコロナ対策はそこまで厳しくありませんでした。



─ニューアルバム『Fossora』のコンセプトはきのこ(mushrooms)だとおっしゃっていましたが、その点について詳しく教えてください。

ビョーク:きのこというコンセプトは、私なりにニューアルバムの音の世界を説明するための方法なんです。たとえば、視覚要素を使うことで音の世界をより効果的に伝えられることってありますよね? 視覚要素が近道の役割を果たしてくれるんです。言葉だけでサウンドを表現するのは、多くの人にとって大変なことのように思えます。

前作『Utopia』(2017年)では、雲の中に浮かぶ島をイメージしながらアルバム制作に取り組みました。SF小説のようなプロセスですね。それも『Utopia』ではフルートの音をたくさん使ったからです。ベース音もビートもほとんど使用しませんでした。まるで宙に浮いているようなサウンドです。『Utopia』のことを「雲の中の街」と表現したのも、こうした浮遊感を思い描いていたから。雲という視覚要素がアルバムのサウンドを的確に表現する役割を果たしてくれました。それに対して、最新作の『Fossora』はどちらかというと地に足がついたイメージです。バスクラリネットの六重奏に加えて、地上で起きているいろんなことを音で表現しました。このアルバムのサウンドは、菌類を想起させます。だから、「きのこアルバム」と呼ぶことにしたんです。でも、理由はこれだけではありません。このアルバムのレコーディングには5年かかりました。ひとつひとつのきのこが違っているように、似た曲はふたつとして存在しません。だからこそ、きのこという表現がふさわしいと思ったんです。それに加えて、『Utopia』に象徴される雲の時代のあとの“着陸”のようなアルバムでもあります(笑)。アイスランドでの日々は、私にとって地上への回帰でもあったのです。ひとつの場所で長い時間を過ごすと、地中の奥深くまで根を張ることができます。そのおかげで、しっかりと自分の足で立つことができるのです。

ですから「きのこアルバム」は、地に足のついた感覚をしっかり持てたというか、穏やかさを感じることができたという私の感情を表現しているんです。アーティストは、いつもいろんな場所を行ったり来たりしています。時々、自分でも嫌になってしまうくらいね。

Translated by Shoko Natori

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