ビョークが語る「きのこアルバム」の真意、アイスランドのジェンダー平等と環境問題

アイスランドの多様性とジェンダー平等

─アーティストとしてのキャリアを歩みはじめたころと比べて、音楽業界における女性の地位は変わったと思いますか?

ビョーク:アイスランドは、男女格差の少ない国です。女性の権利という点でも、アイスランドは常に世界ランキングのトップ3に入っています。私自身、ヒッピーのファミリーとアイスランドというリベラルな国に育てられました。そのせいか、あまり男女の差を感じたことはありません。

男女の格差に気づいたのは、海外で活動するようになってからだと思います。音楽業界に限らず、ほかの業界でもこうした違いを感じるようになりました。特に映画業界は、男女の格差はかなり大きいですよね。でも、そうした状況も大きく変わったと思います。変化は、いまも確実に起きています。

─教育をはじめ、アイスランドはさまざまな分野で世界の模範的な存在へと成長しました。その理由は何だと思いますか?

ビョーク:はっきり言いますが、この国もいろんな問題を抱えています。楽園ではありませんから。このインタビューを通じて、アイスランドの素晴らしさを自慢するつもりもありません。この国には、まだまだ解決しなければいけない課題がたくさんあります。でも、グローバル化と環境問題に特徴づけられるこの時代に、アイスランドが多くの分野で功績を残している理由のひとつは、小さな島国だからかもしれません。本当は、そこまで小さくないのですが(笑)。アイスランドの人口は約36万人。面積はイングランドとたいして変わりません。そう考えると、大きな島ですね。

アイスランドは豊かな自然に恵まれていますし、人口密度も低いです。自然とテクノロジーのバランスという点でも、とても健全だと思います。都会と自然のバランスも良いですね。レイキャビクはヨーロッパを代表する主要都市ですが、海や山といった自然にも囲まれています。多くの都市が環境問題に直面するなか、自然と文明のバランスが保たれていることは健全であると同時に、いろんな問題に対処しやすいのです。

もうひとつの理由は、アイスランドが600年間デンマークの支配下に置かれていたことだと思います。アイスランドの人々は、植民地として辛酸をなめました。ですから、独立を勝ち取った人々にとって新しい世代が次々と生まれることは、独立を謳歌することでもあります。50年前のアイスランドの人々の社会的地位は、決して高いものではありませんでした。でも、いまは違います。私たちは、独立した国が成熟するちょうど良い時代を生きています。これが50年後にどうなるか楽しみですね。ひどい国になっているかもしれないけど!

もうひとつ言えるのは、アイスランドでは女性がかなり強いことです。ヨーロッパ大陸から遠く離れているため、アイスランドは一種の母権社会としての道を歩んだのです。これについては、何時間でもお話できます(笑)。テーマとしては複雑ですが、そのおかげで21世紀にふさわしい多様性を実現することができました。それも、どの文化圏よりも早い段階で。

ほかの北欧諸国から受けた恩恵もあると思います。アイスランドは、600年間植民地でした。その間に人々は散々な目に遭いましたが、社会福祉や教育の面では、北欧諸国の良いところを取り入れたんです。

資本主義や社会主義など、世界にはいろんな主義を掲げる国家があります。でも、資本主義国家のほとんどは、教育制度や医療制度に関しては社会主義的な制度のほうが優れていることを認めざるを得ないでしょう。こうした制度の下では、教育や医療は無償化されていますから。

そう考えると、アイスランドにはいいところがたくさんあります。でも、課題もあります。いわゆる“実業家たち”は、アイスランドを巨大なアルミニウム生産工場に変えようとしていますから、私たちはこうした人たちと日々闘わなければいけません。ですから、必ずしもすべてが最高とは言えないのです。


Photo by Viðar Logi

─アイスランドといえば、カレオやオブ・モンスターズ・アンド・メン、シガー・ロスといったアーティストたちが有名です。小さい国でありながらも、世界にたくさんの素晴らしい音楽を届けていますね。

ビョーク:そうですね。「アイスランドが世界的に有名なアーティストをたくさん輩出できる理由は?」のようなことをよく訊かれます。でも、私にもわからない(笑)。ひとつ言えるのは、レイキャビクという街の規模が音楽に合っていることだと思います。レイキャビクは、村に似ています。街の中心部にはどこでも歩いていけますし、車もいりません。コンサート会場から5分歩けばアートのインスタレーションが楽しめるし、そこから5分歩けば劇場もあります。ここでは何もかもがDIY的で、お金もかかりません。世界的に有名になることが目的ではないのです。アイスランドでは、音楽活動だけでお金を稼ぐことはできません。音楽を愛していることが何よりも大切です。

14、15歳から25歳くらいまでの若い子たちは、ただ音楽が好きだから音楽をやっています。彼らの周りには、音楽に耳を傾けてくれる人がたくさんいます。何かを学び経験を積む、という点でもアイスランドは良い環境ですし、世界に羽ばたく覚悟もできます。アイスランドは、ミュージシャンを育てる優秀な養成機関のような場所なのです。

その一方で、映画を作りたい人はアイスランドでは苦労するかもしれません。なんせ人口36万人という小さな国ですから。撮影自体が大変ですし、資金面での課題もあるでしょう。それに対し、バンド活動はあまりお金がかかりません。メンバー探しも簡単です。ロンドンやニューヨークといった大都市でのバンド活動は、ここまで単純にはいかないと思います。自分たちのことを知ってもらうのも大変ですし、競争も熾烈です。アイスランドの場合、楽曲をリリースしてライブを一回やれば、みんなに知ってもらえます。ですから、ティーンエイジャーのバンドにとってアイスランドはとても良い場所です。

Translated by Shoko Natori

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