ビョークが語る「きのこアルバム」の真意、アイスランドのジェンダー平等と環境問題

「きのこアルバム」に影響を与えたビート

─「きのこアルバム」とご自身でおっしゃっているように、『Fossora』にはオーガニックなサウンドがたくさん取り入れられています。きのこというコンセプトとのつながりもはっきり感じられますね。過去のアルバムと比べるとエレクトロニックの要素が薄いようですが、その点についてはどうですか?

ビョーク:サウンドのバランスという点では、『Utopia』に近いと思います。先ほどお話したように、『Utopia』ではフルートを使用しました。『Vulnicura』(2015年)ではストリングスを使用しています。要するに、私はいつもアコースティック楽器のサウンドを取り入れてきたんです。それでも、従来のビートやボーカルのエフェクトは、エレクトロニックというかデジタル寄りです。というのも、私は自分でアルバムの曲を編曲していますから。いろんな要素を結びつけたり、ビートを加えたりと、ノートパソコンで何時間も作業するんです。

普段は、Pro ToolsやSibeliusといったソフトウェアを使っています。Sibeliusは、アコースティック楽器向けのアレンジができるソフトウェアです。ニューアルバムのデジタルなサウンドには、私のほかのアルバムにも通じるものがあると思います。アナログとデジタルのバランスというか、私はどちらも仲の良い友達のような関係でいてほしいのです。私の理想の世界では、アナログもデジタルもどちらも存在しています。血の通った人間の友達がいれば、恋人もいるし、家族もいます。その一方で、スマホもあるし、インターネットなんかもあります。考えてみると、私たちが生きている世界とよく似ていますね。


Photo by Viðar Logi

─「Atopos (feat. Kasimyn)」や「Ovule」といったニューアルバムの収録曲の中には、ラテンミュージックの影響が感じられるものがあります。実際、ラテンミュージックにインスパイアされたのでしょうか? それとも、これは単なる私の思い違い?

ビョーク:(笑)きっとレゲトンのビートのことを言いたいのね。

─そうかもしれません。でも、デンボウのリズムもいくらか使われている気が……。

ビョーク:(これらの曲に)レゲトンのビートを取り入れた理由は、自分でもよくわからないんです。「よし、レゲトンのビートに挑戦してみよう」と意識したわけではないので。でも、このビートのおかげであらゆる要素をひとつにまとめ上げることができました。「Atopos」のクラリネットのアレンジや「Ovule」のトロンボーンなどの楽器のアレンジはかなり複雑です。だからこそ、すべてをまとめてくれる、エネルギッシュでシンプルなビートが必要でした。レゲトンのビートは、まさに私が探していたものだったの(笑)。最初は、基本的なサウンドを使って自分でビートを作りました。その後、サウンドは変えましたが、ビートの構造は残しています。

自分でも理由はわかりません。ちょうどランサローテ島(訳注:ヨーロッパのリゾート地として有名なスペインのカナリア諸島の最東に位置する島)に滞在していたころにこの曲を書きました。ランサローテ島には、アルバム制作の初期に2回行っています。現地のラジオ局から流れてくる音楽を聴いていたので、無意識のうちに影響を受けたのかもしれません。同じころ、アルカやロザリア、エル・グインチョといったアーティストたちとバルセロナで一緒にいることも多かったので、彼らの影響を受けたのかもしれません。理由はさておき、意図的にレゲトンを取り入れたわけではないんです。当時は、ウガンダのテクノとか、東アフリカを中心としたアフロビートをもっぱら聴いていましたから。



─アフロビートとレゲトンには、いくつもの類似点があります。

ビョーク:そのとおり。ビートの構造もよく似ていますね。

─レゲトンが生まれたカリブの島々のダンスホールでも同じような現象が起きています。

ビョーク:そうなんです。その影響を大いに受けたのかもしれません。いろんな音楽が混ざっています。

Translated by Shoko Natori

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