決死のカブール脱出、女優兼監督が語った一部始終

深夜1時頃、部屋のドアを激しくノックする音が聞こえた

アフガニスタン国内で組織の戦闘員や支持者を統制できる、などというタリバンの考え方は楽観的すぎると思う。彼らは勝利したと思っているから、権力を握っているつもりになっている。暴力を振るい、さらにエスカレートする力を握っている。自分たちの計略を実現するためのタリバンのやり方だ。彼らは、暴力に訴えることしか知らない過激な若者を集めている。彼らは正規の教育を受けられず、小さな頃から過激思想だけを叩き込まれて、夢や希望を持つことさえ許されていないのよ。

ジョー・バイデンが、タリバンとは誠実な組織として交渉できる、などと楽観的な考えを持っているのではないか、と私は思う。タリバンは権威主義者であり、無秩序な暴力で権力を維持している。だから、空港でも組織の戦闘員が人々へ向けて発砲するのを止められなかったのよ。アフガニスタンでは今、米国人であっても拘束されている。アフガン系米国人、アフガニスタン人の英語通訳やジャーナリスト、アフガニスタンのメディア関係者、アフガニスタン人活動家、アフガニスタンの女性など、米国が支援したプロジェクトに関わり、反タリバンの立場を取るすべての人々が危険にさらされている。


アフガニスタンのヘラートにある難民キャンプを訪れたカゼミ(2015年)(Photo by Hoshang Hashimi/Courtesy of Fereshta Kazemi)

米軍に永遠に駐留して欲しいと願うアフガニスタン国民など、誰もいなかった。彼らは独立を願っていた。それでもバイデンがなぜこのような形で去ったのか、理解できない。理にかなっていない。アフガニスタン軍が戦闘を続けるためのロジ的支援を全面停止してしまった理由も、理解できない。米国は、ロジスティクス、サプライ、維持管理などのサービスを提供し、アフガニスタン軍が全面的に頼っていたすべてのコントラクターを撤退させてしまった。アフガニスタン軍に独立するための技術的な準備が整っていないことを、理解していたのだろうか? バイデンの安全保障チームの中の誰も、状況を考慮しなかったのだろうか? なぜ駐在の米国大使館員も退避させたのか? アフガニスタン国内に留まっている米国国民を、誰が捜し出すのだろうか? 人道上の悲劇を目の当たりにした私たちが最低限できることは、責任問題を追及することよ。

ホテルのスタッフたちが、状況を説明してくれた。「タリバンが、ホテルのコンパウンドの外にある私たちの家々を回り、“ホテルのスタッフは米国人と仕事をしているのではないか”とか“彼らはどんな様子で、何を話していたか?”などと聞き回っているらしい」という。多くのスタッフは口々に「家には帰りたくない」と話し、タリバンを恐れてホテルのコンパウンド内に宿泊していた。あるスタッフは「電話番号を教えてくれ。脱出するのを助けてもらえないだろうか。誰か助けてくれる人を知らないか。連絡してもいいか」と聞いてきた。私は、「もちろんよ。あなたの電話番号を教えて。力になってくれそうな人たちに聞いてみるわ」と答えた。

ホテルには3日間滞在した。どうやって生き延びるかに必死だったので、ニュースなど見ている余裕もなかった。最後の晩にベッドへ入ると、深夜の1時頃に部屋のドアを激しくノックする音が聞こえた。外では米軍の兵士が「米国人か? 米国人か?」と叫んでいる。起き上がって出ていくと「今すぐ出発するぞ」という。私が荷物をまとめていると、兵士に「全部を持っていくことはできない」と言われた。「友人がチャーターしてくれたフライトを待っているのだけれど」と私が言うと、「あなたはわかっていない。昨晩、空港は制圧された。タリバンの攻撃に、人々は必死で逃げている状態だ。我々にも今後の状況は見えない。だから全部の荷物は運べない」との答えだった。そこで私は撮影機材の入ったバッグ2つだけを持ち、その他の着替えなどは諦めて着の身着のまま部屋を出た。髪を整える暇もなかった。

Translated by Smokva Tokyo

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