決死のカブール脱出、女優兼監督が語った一部始終

武装したタリバンと遭遇

ホテルまでは徒歩で帰らねばならず、歩いていると、「お姉さん、こちらへ来なさい」と、女性に声をかけられた。「見えている髪の毛を覆って、下半身も隠しなさい」と言う。私はいちおう被り物をして、ジャケットを腰に巻いて腿を覆っていた。でも極度に保守的な文化のアフガニスタンでは、十分ではなかったのね。彼女には「ジャケットでは短すぎるし、髪の毛も見えている」と言われた。なんだか嫌な気持ちになったわ。ホテルへ着くと支配人に「早く中へ入りなさい。タリバンが2時半頃にカブールへやって来るらしい」と告げられた。

敷地内のコンパウンドまで移動する防弾車を待っていると、運転手が外出を怖がって送迎してくれないことがわかった。私は焦って、いとこに電話してコンパウンドまで車で送ってくれるように頼んだ。ところが、いとこの車は渋滞にはまってしまった。タリバンがカブールへやって来ると聞いた交通警官たちが、職場放棄して逃げ出していたのよ。おかげで街中が渋滞だった。空港にも数千人の人々が殺到して、大混乱の第一波が押し寄せていた。

私はあちこちへ電話を入れた。まずは借りているマンションの管理人へ電話して、「先月分の家賃を支払いたいんだけど、現金が下ろせない」と伝えた。何とかして私のいとこと落ち合おうとしたが、いとこは大渋滞で身動きが取れなかった。軍の知り合いに「明日出国した方がいいかしら」と尋ねると、「とりあえず今日はホテルのコンパウンドに行った方がいい」を言われた。急に緊張して涙が出てきた。いとこも誰も頼れないのであれば、自力で逃げるしかない、と決意した。そうこうしているうちに、いとこが現れた。

午後5時に、荷物をまとめて移動を始めた。黒のアバヤ(イスラム教徒の女性が身にまとう全身を覆うローブ)を着て、コロナ対策のマスクで顔を隠し、頭には黒いスカーフを被った。階下へ降りたちょうどその時に、武装したタリバンが建物の前にやって来た。非常にまずい状況だ。建物の持ち主たちは、「我々は仲間だろう。建物の管理は任せるよ。お願いだ(殺さないでくれ)」という態度だったので、建物は次々とタリバンに制圧された。

私は恐怖を覚え、いとこも怯えているように見えたわ。いとこはタリバン政権下のアフガニスタンで育った。道端に死んだ女性が横たわっているような時代よ。彼はタリバンにものすごく怒っていて、私に声を出さないように注意した。そして「僕から離れないで」と言うと、車に乗り込んだ。街のあちらこちらにタリバンの姿が見えた。彼らが正にカブールへ足を踏み入れたと同時に、私たちは移動しようとしていた。車から外を見ると、街中がタリバンだらけだった。

私の泊まっていたホテルのコンパウンドは、米国など海外のプロジェクトに関わる外国人が利用するような施設だった。セキュリティもしっかりしていて、従業員は防弾車で移動している。かつては、私のような外国人がカブールに滞在する時に防弾車など必要なかった。でも今では、私が泊まったコンパウンドのように、高度なセキュリティが必要とされている。


カブールから出国するための手続きを待つアフガニスタン人の列を見守る米国兵(2021年8月25日)(Photo by Marcus Yam/ "Los Angeles Times"/Getty Images)

Translated by Smokva Tokyo

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