高田渡はなぜカメラに惹かれたのか? 高田漣と共に振り返る



田家:1971年のアルバム『ごあいさつ』から「銭がなけりゃ」。演奏ははっぴいえんどです。大滝詠一さんがサイドギターで、鈴木茂さんがリードギター、細野晴臣がベースで松本隆さんがドラム。『風街ろまん』と同じ年。生ギターが中川イサトさん、バンジョ・コーラスが岩井宏さん。コーラスは加川良さんや遠藤健司さん。こういう人たちは皆写真集に登場してます。

高田:確かに。URC時代からの仲間ですからね。

田家:写真集の中には、伊藤銀次さんや井上陽水さん、坂本龍一さん、西岡恭蔵さん、三浦光紀さんなど名だたる方々が写っています。中川五郎さんは生まれたばかりの漣さんを抱いていますね。97ページのはっぴいえんどの全員笑顔の写真も良かったですね。

高田:珍しいですよね。大滝さんや松本さんはカメラを向けられるとキリっとしてしまうというか、普段の素の姿ってなかなか撮られなかったので。やはり高田渡はカメラマンじゃないので、逆に皆さんが素になっていて、当時の空気感を写真の中に感じますね。一般的なイメージだと、はっぴいえんどというバンドはビートルズ伝説と似ていて、お互い火花を散らして仲睦まじいわけではないというイメージがあると思うんですけど、あの写真を見るだけでもメンバー間の距離感を垣間見れる気がしますね。

田家:ああいうミュージシャンの写真を見ながら、漣さんが改めて感じたのはどんなことでした?

高田:やっぱり当時のフォークシーンは、どこかそれぞれのミュージシャンが戦場というか自分の表現を研磨していく中でお互いぶつかり合っていく場でありながら、フレンドリーにお互いを認め合っているというか。ライブを皆がそれぞれ演奏しているところを見ているというのも、昨今のロックフェスとは違う雰囲気がある気がしますね。

田家:皆でシーンを作ったり、切磋琢磨する戦友だったということなんでしょうね。

高田:そうなんだと思いますね。

田家:漣さんが解説の中で、渡さんの写真の特徴について二点書かれてました。一点は、好んで撮っていたのが働く人々の日常だった、もう一点が、人物を正面から撮らない。背中が語る人生を撮っている。

高田:働く人を撮るっていうのは高田渡の歌の世界に直結することで、如何にも高田渡らしいなと思ったんです。背中越しの写真も多いなと思っていて、それはたぶんカメラを真正面で向けてしまうとどこか構えてしまったりするのもあると思うんですけど、それを後ろから撮ることで見える人生みたいなものを写真表現の中で見出し始めていたんだと思いますね。あのままずっと写真を本気で撮り続けていたら、もっと写真が増えていったんじゃないかなと思います。

田家:街中の働いている人、通りかかった人の背中が多いんですが、ミュージシャンについては真正面。しかも皆笑ってるんですよ。

高田:そうなんです。その辺はミュージシャンの前にスッと現れて面白いこと言ってたんでしょうね。写真も続いているものが多いんですけど、なんかこういうやりとりがあったんだろうなっていうものが見えることが多かったです。

田家:そういう雰囲気が伝わってくる曲をおかけします。加川良さんの1974年のアルバム『アウト・オブ・マインド』の中から「子守唄をうたえない親父達のために」。

Rolling Stone Japan 編集部

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