米国史上唯一の未解決ハイジャック事件、運命を狂わされた客室乗務員の半生【長文ルポ】

ハイジャック事件に遭遇した客室乗務員、ティム・マックロー(Courtesy of Tina Mucklow)



男性が手にしていたブリーフケースの中身には…

マックローが語ったように、彼女はただ任務をこなしているだけだった。その男性が開けたブリーフケースを開け、ダイナマイトらしき数本の円筒に起爆装置が取り付けられているのを見せると、彼女は目眩を覚えたという。「目の前のシートポケットに入っていた、嘔吐袋が目に入ったのを覚えています」。彼女はそう話す。しかし、ルター派の家庭に生まれ育った彼女は、嘔吐袋を手にするのではなく、ただ祈りを捧げた。彼女は乗客たちの後頭部を見ながら、感謝祭に彼らと会えることを楽しみにしているであろう家族の存在を思い浮かべ、彼らの無事を祈った。また家族や友人と2度と会えないかもしれないと思いながら、自分自身のために祈った。神に感謝を捧げ、自身の欠点や愚かさ、そして22歳の若さにしてこの世を去ることについて赦しを求めた。また彼女は、ハイジャック犯のためにも祈りを捧げた。「彼と彼の家族のために祈り、彼が赦されることを願いました」。彼女はそう話す。「私は諦念に似た安らぎを感じ、自分がすべきことにただ集中しました」

シアトルまでの飛行時間はわずか30分だったが、政府機関の人間が犯人の要求に応じようと奔走する間、機体は管制塔の指示に従ってピュージェット湾上空を2時間近く旋回し続けた。窓の外では雷光が走っていた。機体が湾岸上空を旋回していた理由が、爆弾が爆発した場合に地上の人々が乗客たちの下敷きになるのを回避するためだったことを、マックローは後になって知ったという。副操縦士のBill Rataczakは乗客に対し、機器の些細なトラブルのため燃料を消費し尽くす必要があると説明していた。機体が無事に着陸して降機してからも、乗客たちは機内で何が起きていたかを把握していなかった。マックローはハイジャック犯の指示に従い、政府が用意した金とパラシュートを男に届けるため、機体への出入りを何度か繰り返した。他の2人の客室乗務員は解放され、同機は燃料を補給した。

その男はメキシコシティに向かうよう指示した。燃料を補給する中継地点のネバダ州リノに向かって再び離陸した際、ボーイング727の客室にはスーツにサングラス姿の犯人、そしてマックローだけが残っていた。「絶望的なほど孤独に感じていました」彼女はそう話す。

【画像を見る】FBIが公開したハイジャック犯、D.B.クーパーの似顔絵

Translated by Masaaki Yoshida

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE