米国史上唯一の未解決ハイジャック事件、運命を狂わされた客室乗務員の半生【長文ルポ】

ハイジャック事件に遭遇した客室乗務員、ティム・マックロー(Courtesy of Tina Mucklow)

1971年に起きたハイジャック事件「D.B.クーパー事件」。現場にいた客室乗務員のティナ・マックローは、未だ謎に包まれたハイジャック事件解決のカギを握る存在とされてきた。彼女の口から語られる言葉は、真相究明への突破口となりうるのだろうかーー。

1971年11月24日、感謝祭を翌日に控えたその日、ミネアポリスのツイン・シティーズに住んでいたティナ・マックローと、3人の客室乗務員と3人の操縦士からなるキャビンクルーは、祝日をまたぐ4〜5日間のフライトに向けて準備を進めていた。マックローはクルーの中では最もキャリアが短く、客室乗務員としてのランクも一番下だった。オレゴン州ポートランドでの離陸準備時、乗客たちが搭乗を終え、上空には雷雲が立ち込めるなか、「乗客の目の保養」という役割も担っていた彼女は、搭乗客たちのグラスに次々と氷を入れていた。ノースウエスト航空では、離陸前に乗客に飲み物を出していたからだ。同僚のフローレンス・シャフナーはキャビンの後列から、彼女は前列から応対していた。

マックローとシャフナーが機体後部のジャンプシートのバックルを締めようとした時、シャフナーが立ち上がり、最後列に座っていた乗客の隣に着席した。「離陸直前に席を移動するというのは、通常では考えられない行動でした」マックローは本誌にそう語った。シャフナーは自身が残した紙切れを拾うように、マックローに身振りで示した。それにはこう記されていた。「私は爆弾を所持している。私の隣の席に座れ」マックローは反射的に近くに設置されていた受話器を上げ、操縦士たちに事情を説明した。その飛行機はハイジャックされようとしており、悪質なジョークだとは思えなかった。やがて彼女は、シャフナーとその乗客の席に近づいていった。その男性はダークカラーのスーツにネクタイ、ホーンリムのサングラスという出で立ちで、傍にはブリーフケースが置いてあった。シャフナーが聞かされたその男性の要求は、午後5時までに現金20万ドルとフロントパラシュートとバックパラシュートを2つずつ用意し、シアトルにタンクローリーを控えさせておくことだった。飛行機が高度を上げるにつれて、シャフナーが要求内容を記したメモを持ってコクピットへと向かうと、マックローが代わりに男性の隣の席についた。「『私はここにいるべきですか?』と自分から尋ねたか、その男から『そこに座っていろ』と言われたか、どちらかだったと思います」。事件について、これまで滅多に口を開かなかったマックローはそう話した。彼女はその瞬間から、インターホン越しに男とコクピット間のやり取りをする連絡係を担うことになった。「私の役目はハイジャック犯を興奮させず、落ち着かせ、起爆装置のスイッチを入れさせないことだった」

Translated by Masaaki Yoshida

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