米国史上唯一の未解決ハイジャック事件、運命を狂わされた客室乗務員の半生【長文ルポ】

事件後のマックローは多くを語ろうとしなかった

そのボーイング727に搭乗していた多くの人々にとって、マックローはヒーローたる存在だった。犯人を落ち着かせ、乗客たちが恐怖で混乱に陥るのを防ぎ、機体と乗組員たちが悲劇的な末路を辿るのを回避した。「彼女はとても冷静で、毅然とした態度で接していました。あのような犯罪を実行しようとしている人間の隣で、ああいった対応ができたのは彼女だけだったと思います」。Rataczakはそう話す。2人は現在でも連絡を取り合っており、彼にとってマックローは妹のような存在だという。「彼女はおおらかで、発言や行動からは実直さが伝わってきます。あの事件でティナが見せた勇気ある行動に、私は心から敬意を払っています」

当事者以外にしてみれば、彼女は謎を解き明かす鍵となり得る存在だ。事件以来、D.B.クーパーに魅了された人々は、彼女に接触を試みるようになった。その中には彼女を、狂おしいほどの好奇心に決着をつけられる救世主だとみなす者もいた。彼女は犯人と直接やり取りをしていたのだから、そう思われるのも無理はない。マックローが事件について滅多に語ろうとしなかったことは、彼女が何かを隠蔽しているという陰謀論者たちの見方を助長した。「私は精神に問題を抱えているか、犯人と結託しているか、あるいは重要な事実を隠していると思われていました」。彼女はそう話す。

ネット上では様々な噂が飛び交っているが、マックローが事件について積極的に語ろうとしないのは、口にできない秘密を抱えているからではない。彼女は証人保護の監視下にあるわけでもなく、客室内での犯人とのやりとりによって心的外傷後ストレス障害を患ったわけでもない。事件後に彼女はFBIの捜査に積極的に協力し、その役目を終えてからは、過去に囚われすぎないよう前を向いて歩み続けた。「私は日常に戻り、やるべきことに集中し、自分の好きなことをやろうとしました」。彼女はそう話す。「あの事件に、自分の人生を支配させるつもりはありませんでした」。唯一彼女を煩わせていたのは、事件の真相を探ろうと毎年のように接触してくる一部の人々だった。

最近になって、マックローは以前よりもやや積極的にインタビューに応じるようになった。歴史に残る怪事件から50年の節目に当たる今年、事件現場のクルーたちの体験に基づいた映画(ジョーイ・マクファーランドとDawn Bierschwalのタッグによるアクションスリラー)が制作されるにあたり、彼女はそのコンサルティングを務めている。彼女は2016年に放送された2部構成の『History』と、昨年HBOが制作したドキュメンタリー『The Mystery of D.B. Cooper』でも短いインタビューに応じていた。そして今回、彼女は本誌にこれまでになく詳細に、自身の経験について語ってくれた。「私が知っていることを、自らの中に抱え込むのではなく、歴史の一部として共有するべき時が来たと感じたのです」。彼女はそう話す。

Translated by Masaaki Yoshida

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