米国史上唯一の未解決ハイジャック事件、運命を狂わされた客室乗務員の半生【長文ルポ】

ハイジャック事件に遭遇した客室乗務員、ティム・マックロー(Courtesy of Tina Mucklow)



飛行機からパラシュートで飛び降りた犯人

犯人の要求に応じる形で、機体が高度を10,000フィートまで下げようとする中、マックローは時間の流れを異常に遅く感じていたという。時間は午後8時になろうとしていた。犯人の指示に従い、彼女が客室後部の階段へと通じるドアを開けると、客室内に轟音が響き渡った。彼女は階段を下ろす方法について説明しながら、犯人が脱出する際に自分が夜の雨雲の中に吸い込まれてしまわないよう願った。飛行機が離陸した4〜5分後の時点で、男は彼女がコクピットの操縦士のところに行くことを許可していた。「その場を去る前に、私はこう言ったと思います。『お願いですから、どうか爆弾を持っていって下さい』」。彼女はそう話す。彼女の記憶では、パラシュートの準備に集中していた男からの返事はなかったという。マックローと操縦士にとっての恐怖の時間は、ようやく終わろうとしていた。「クルーたちのいるコクピットに入った瞬間、心から安堵しました」彼女はそう話す。「危機が過ぎたわけではなかったけれど、少なくとも1人きりではなくなったので。相手の顔を見た途端、私たちは互いに胸をなでおろしました」

「コクピットのドアが開き、ハイジャック犯と対峙してくれていた魅力的な女性が入ってくるのが見えました」。副操縦士のRataczakはそう話す。「私は思わず、安堵のため息を漏らしました」

リノに到着し、機体の捜索が完了した時点で、彼女と3人のパイロットたちはようやく恐怖から完全に解放された。爆弾、現金、そしてハイジャック犯は姿を消していた。

滑走路に控えていたFBIの護送車の後部座席にRataczakと並んで座った時、マックローは溜め込んでいたものが溢れ出るかのように泣いた。「とめどなく泣きじゃくる私に、ビルはずっと『もう大丈夫だよ』と声をかけ続けてくれました」

その事件の奇妙さは、フィクションとしか思えないほどだ。ポートランド付近の深い森に向かってのスカイダイビング自体が極めて危険であり、嵐の夜にスーツとドレスシューズ姿で決行するなど、もはや自殺行為に等しい。だが大掛かりな捜査が行われたにも関わらず、その男の遺体もパラシュートも見つかることはなかった。1980年にはある少年が、ワシントン州からポートランド北部にかけて流れるコロンビア川の沿岸で、腐乱した20ドル札の束をいくつか掘り起こし、それが事件に用いられたものであることが判明した。しかし、それは謎の解明には結びつかなかった。FBIはその紙幣のシリアルナンバーを公開したが、事件に使用された現金の大半は発見されなかった。D.B.クーパー事件(犯人はダン・クーパーという偽名で搭乗券を購入していた)として知られるその一連の出来事は、以降約50年に渡って、警察とアマチュア探偵たちの頭を悩ませ続けた。2016年、FBIは捜査の終了を正式に決定した。現時点で、それは歴史上唯一の未解決の飛行機ハイジャック事件となっている。

Translated by Masaaki Yoshida

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