1970年代の浜田省吾との出会い 水谷公生とともに振り返る



田家:ファンの間ではとても支持の高い曲です。この曲を選ばれたのは?

水谷:今のコロナ禍ということもあるんですけど、皆大股ですごいスピードで歩いてきたのが日本だと思うんですよね。でも一番大切なものって、人の心だと思うんですよ。この歌の主人公は彼女にセーターを買ってあげたい、でもポケットの小銭を大事にしていかないと自分も前に進めなくなるし、と思っている。この当時、僕はスタジオで歌謡曲を担当することが多かったんですけど、こういう歌詞はあまりなかったんですよね。どちらかというと、高度経済成長の中でイケイケみたいな曲が多くて。その中で、浜田さんとは本当に人の気持ちに触れる仕事をしてきたし、こういう曲はリアリティがあって現実的でしょう? 僕にもこういうお金がない時代はあったし、それをポップなメロディで歌にしていたので、敢えてアコースティックだけにしないで、佐藤準くんにシンセサイザーを弾いてもらったりもしたんですけどね。自分の中でポップにしたいというのはあって。今だからこそ伝わってほしいって思いました。

田家:胸がキュンとするような温かい詞でもありますもんね。1978年のアルバム『Illumination』から、「散歩道」でした。

子午線 [Live] / 浜田省吾

田家:お聴きいただいているのは、去年発売の映像作品『Welcome back to The 70’s “Journey of a Songwriter" since 1975 「君が人生の時~Time of Your Life」』の完全限定盤の付属特典CDから「子午線」。オリジナルは1979年5月発売のアルバム『MIND SCREEN』。MCでも仰っていましたが、この曲はライブで歌ったことがないと。

水谷:そういえばあったなっていう感じで(笑)。

田家:お客さんも「あ、この曲!」という受け止め方だったでしょう。作詞も浜田さんご本人ではないので、あまり触れたくない曲になっていたのかもしれませんね。

水谷:時が流れましたからね。いい曲ですよ。

田家:このアルバムの全曲アレンジが水谷さんでした。このアルバムから、ディレクターが後に尾崎豊さんを手掛ける須藤晃さんに変わったりもして、浜田さんの周りの環境が変わっていく中で、悩まないといけないことがたくさんあった時期でもあったんでしょうね。

水谷:このアルバムを通じて「全部の作詞は俺がするんだ」っていう意識が強くなったと思うんですよ。そういう面では、やったことは間違ってなかったと思いますね。

田家:先ほど、水谷さんは最初は鈴木さんとお話する機会が多かったと仰っていましたが、この時期もそうですか?

水谷:そうですね。それとミュージシャンと僕たちの作り出す音に、浜田さんも慣れてきたんだと思うんですよ。僕たちのグループのサウンドが浸透し始めてきたのかなと。だんだんこなれていく過程です。

田家:先ほど名前の挙がったミュージシャンは、当時のトップミュージシャンでもあるわけで。最先端のサウンドと言ってもいいわけですよね?

水谷:そうですね。有名な佐藤準くんがキーボード弾いてるし、岡沢茂がベースで。

田家:浜田さんと彼らはちょっと距離がありましたか。

水谷:そうですね。でもこういう世界ですから中心の人が伸びてくれば皆尊敬もしますし。

田家:そういう過程のアルバムだった。その一方で、一昨年のツアーではこの曲もやっていました。「いつわりの日々」。

Rolling Stone Japan 編集部

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