「新世代UKジャズ」について絶対知っておくべき8つのポイント

2. 『Blue Note Re:Imagined』が証明する歴史の繋がり

新しい世代による“UKジャズ”と呼ばれる音楽が、上述したイギリスのジャズ史に接続できることを、(ほぼ)イギリスの若手ミュージシャンたちによるブルーノート音源の再解釈企画盤『Blue Note Re:Imagined』は鮮やかに証明している。ここにはUKならではのジャズとDJカルチャーの関係性が紛れもなく受け継がれている。


『Blue Note Re:Imagined』の原曲と収録曲が交互に並べられた公式プレイリスト



ジョルジャ・スミス
1997年生まれ、ロンドンの今を象徴するR&Bシンガー。ドレイク『More Life』やケンドリック・ラマー総指揮『Black Panther: The Album』への参加を経て、2018年のデビューアルバム『Lost & Found』でブレイク。

アルバム冒頭に収録されたジョルジャ・スミスの「Rose Rouge」は、フランスのクラブジャズ系ユニットのサンジェルマンが2000年にブルーノートからリリースした楽曲のカバーだが、これはもともとマリーナ・ショウがブルーノートから1974年にリリースしたアルバムに収められている「Woman of the Ghetto」をサンプリングしたもの。アメリカであればジャズ史にもとづいた解釈か、ジャズとヒップホップとの関係の文脈での解釈になるのが定石だと思うが、そこにクラブジャズが入る辺りがイギリスらしさであり、この「Rose Rouge」はイギリスのジャズ周辺のシーンの本質を示している。





『Blue Note Re:Imagined』の収録曲で最初に先行公開されたジョルジャ・スミスの「Rose Rouge」が“ジャズの曲”ではなく、“ジャズの曲をサンプリングしたクラブジャズ”を再解釈していることが象徴するように、このコンピレーションはブルーノートを再解釈することがコンセプトにはあるが、ジャズかどうかは全く問うていない。そもそもR&Bシンガーであるジョルジャ・スミスを筆頭に、ポピー・アジュダ、ジョーダン・ラカイ、スキニー・ペレンベ、アルファ・ミスト、ブルー・ラブ・ビーツ、ヤスミン・レイシー、ミスター・ジュークスといった参加アーティストの半数は、純粋なジャズ・ミュージシャンとは言いがたい人たちばかりだ。R&Bシンガー、ビートメイカー、プロデューサーだったりにカテゴライズされるほうが妥当だろう。


(左)ポピー・アジュダ:サウスロンドンを拠点に活動するネオソウル・シンガー。トム・ミッシュの人気曲「Disco Yes」にもヴォーカルとして参加。
(中央)アルファ・ミスト:イーストロンドン出身のプロデューサー/コンポーザー。トム・ミッシュやジョーダン・ラカイとの交流でも知られ、独自のビートメイクは日本でも人気。2019年に最新作『Structuralism』をリリース。
(右)ブルー・ラブ・ビーツ:90年代UKソウル・グループ、D・インフルエンスを率いたクワメの息子NK OKと、Mr DMによるプロデューサー・デュオ。2018年作『Xover』と2019年作『Voyage』にはUKジャズの重要人物が多数参加。

とはいえ、エズラ・コレクティヴやマイシャのメンバーと何度コラボしてきたジョルジャ・スミス、ドラマーのモーゼス・ボイドによる作品でも起用されたシンガーのポピー・アジュダ、ドラマーのユセフ・デイズらとセッションをしているアルファ・ミスト、サックス奏者のヌバイア・ガルシアなどとコラボしてきたブルー・ラブ・ビーツといったふうに、ジャズ・ミュージシャンと積極的に交流してきたアーティストも少なくない。むしろ、その周縁もしくはすぐ外側にいるのがヤズミン・レイシーやスキニー・ペレンベと考えれば、全員がジャズ・ミュージシャンと何かしらの接点があったり、ジャズ・コミュニティのすぐ近くにいるアーティストばかりだとも言える。ジャズの名のもとに、ソウルやR&B、ヒップホップもクラブジャズも全てまとめられた光景は、80〜90年代にアシッドジャズ・レコーズ、トーキン・ラウドがやってきたこととの繋がりを思い起こさずにはいられない。






(左)マックスウェル・オーウィン:サウスロンドンのベーシスト/DJ/トラックメイカー、幅広い人脈をもつ影のキーマン。鍵盤奏者のジョー・アーモン・ジョーンズ(エズラ・コレクティヴ)と2017年にコラボEP『Idiom』をリリース。(Photo by Dan Medhurst)
(中央)Kwes:ロンドンのプロデューサー。自作も名門Warpからリリースしつつ、ソランジュの傑作『A Seat at the Table』を筆頭に、ロイル・カーナー、ケレラ、Tirzahなどの諸作に携わる。最近ではヌバイア・ガルシアの最新作『Source』をプロデュース。
(右)WU-LU:サウスロンドンのプロデューサー兼マルチ奏者。ローファイでサイケな質感が持ち味。2019年のEP『S.U.F.O.S.』にはヌバイアのほか、ドラマーのモーガン・シンプソン(ブラック・ミディ)などが参加。(Photo by Denisha Anderson)




アシッドジャズやクラブジャズと呼ばれていた時代にも、フランク・フォスターやハービー・ハンコックをサンプリングして楽曲を作っていたU.F.O.やUs3、ファラオ・サンダースやアーチー・シェップをサンプリングしてヒットを生み出していたガリアーノらが活躍していたそのすぐ隣で、グラウンドビートやドラムンベース、ブロークンビーツといったクラブミュージックのシーンが存在し、そこではコートニー・パインやギャリー・クロスビーらジャズ・ミュージシャンが演奏していて、お互いに交流しながら影響を与え合っていた。その頃と同じように、2020年現在のUKジャズシーンでは、上述のアルファ・ミストやブルー・ラブ・ビーツ、マックスウェル・オーウィン、テンダーロニアス、カマール・ウィリアムス、Kwes、WU-LU、もしくは彼らの先達にあたるフローティング・ポインツやスウィンドルのように、ビートメイカーやプロデューサーもジャズ・ミュージシャンたちと密接に交わっている。

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