「新世代UKジャズ」について絶対知っておくべき8つのポイント

Column 2
女性たちが主役を担うUKジャズの今

ヌバイア・ガルシアはインタビューで、女性のミュージシャンが集まって演奏するTWのプログラム「Female Collective」を通じて、先輩サックス奏者のカミラ・ジョージから多くを学んだと語っていた。彼女が在籍するバンド、ネリヤ(Nérija)も「Female Collective」から生まれたという。彼女の最新アルバム『Source』には、ジョー・アーモン・ジョーンズやダニエル・カシミールといった盟友たちに加えて、ヌバイアと同じくネリヤの一員でもあるシーラ・モーリス・グレイとキャシー・キノシが参加している。インディロックの名門として知られるドミノ・レコーズより、2019年にデビューアルバム『Blume』を発表したネリヤは、女性6人+男性1人というバンド編成も特徴的だ。


ネリヤ(Photo by Perry Gibson)



近年のUKジャズシーンでは多くの女性ミュージシャンが活躍している。イギリスではTWのほかにも、女性が積極的に活躍できるよう様々なサポートが実践されてきた。PRS for Music(日本でいうJASRACに近い著作権管理団体)が運営するアーティスト育成団体「PRS Foundation」では、女性アーティストの活動支援を目的としたファンド「Women Make Music」や、2022年までに音楽フェス出演アーティストの男女比を均等にすることを目標に掲げる「Keychange」を立ち上げ、奨励金や育成プログラムに加えて、理念に賛同する音楽フェスへの出演や、国境を越えたコラボの機会も提供してきた。また、女性アーティストのブッキングを推し進め、名門ライブハウスやジャズ・カフェとの橋渡しをするほか、ラジオ番組やワークショップも展開している「Women in Jazz」のような団体もある。音楽業界全体でジェンダー・イコーリティに取り組んできた成果が、シーンに如実に表れているのが今日のUKジャズと言える。ここから主なミュージシャンを紹介していこう。



左からカミラ・ジョージ、シーラ・モーリス・グレイ(Photo by Denisha Anderson)、キャシー・キノシ(Photo by Adama Jalloh)

現在はTWで講師も務めるカミラ・ジョージは、ダニエル・カシミール、フェミ・コレオソ、鍵盤奏者のサラ・タンディによるカルテットで2017年にアルバム『Isang』を発表。翌年発表のリーダー作『The People Could Fly』では、ギタリストのシャーリー・テテやUKソウルを代表するシンガーのオマーも迎えて、アフリカ音楽の要素も取り入れつつ幅広いサウンドを提示している。



トランペッターの「MS・モーリス」ことシーラ・モーリス・グレイは、ネリヤやシード・アンサンブルに参加するとともに、『We Out Here』にも参加したココロコのリーダーを務めている。シエラレオネ出身の母とギニアビサウ出身の父をもつ彼女は、ココロコでサックス奏者のキャシー・キノシ、トロンボーン奏者のリッチー・シーヴライトと女性3人でフロントを担い、西アフリカ音楽の影響を反映したアフロジャズを実践。2019年にデビューEP『KOKOROKO』をBrownswoodより発表しているほか、2020年のシングル「Carry Me Home」はSpotifyで約200万再生回数を記録している。ヌバイアによると、上述の「Female Collective」を現在運営しているのもシーラだという。




「The British Music Embassy Sessions」に出演したココロコのパフォーマンス映像

キャシー・キノシは6管を含む10人編成の大所帯バンド、シード・アンサンブルのリーダー。ここにはネリヤからシーラ、シャーリー・テテ、男性ベーシストのリオ・カイが参加し、テオン・クロスや女性サックス奏者のチェルシー・カーマイケル(プーマ・ブルーやモーゼス・ボイドの作品に参加)も名を連ねている。2019年のアルバム『Driftglass』では、鍵盤でジョー・アーモン・ジョーンズとサラ・タンディが客演しており、西アフリカやカリブ音楽、ネオソウルまで横断したグルーヴを大迫力で奏でている。




2019年、マーキュリー・プライズ授賞式でライブを披露したシード・アンサンブル



左からシャーリー・テテ、サラ・タンディ

ネリヤのメンバーで、シード・アンサンブルやマイシャにも参加しているシャーリー・テテは、ソロ名義のナーデイデイ(Nardeydey)としてはインディロック系レーベルのLucky Numberに所属し、チャーミングで屈折したレフトフィールド・ポップを打ち出している。ピアニスト/作曲家のサラ・タンディは、幼少期からクラシックを学びながらロンドンのジャズシーンに関与するようになり、マイシャやネリヤ、ヤズ・アハメドなどとの共演を経て、2020年にデビューアルバム『Infection In The Sentence』を発表。ビンカー・ゴールディング、フェミ・コレオソ、ココロコからシーラとベース奏者のムタレ・チャシを迎え、引く手数多の演奏センスを発揮している。






左からヤズ・アハメド、エマ=ジーン・サックレイ

トランペット/フリューゲルホルン奏者のヤズ・アハメドは、このシーンにおける多様性を象徴する存在だ。中東バーレーン出身で、レディオヘッド『The King Of Limbs』に参加し、ジョン・ゾーンやエヴリシング・イズ・レコーデッド、イシュマエル・アンサンブルなどと共演。2019年の最新アルバム『Polyhymnia』ではヌバイア、シーラ、シャーリー・テテ、サラ・タンディを迎え、独自のサイケデリック・アラビック・ジャズを追求している。




『Blue Note Re:Imagined』に参加しているエマ=ジーン・サックレイもシーン随一の個性派。ヨークシャー地方で育ったトランペッター/マルチ奏者で、TW周辺のシーンとも共演を重ねてきた彼女は、2020年に設立した自身のレーベル「Movementt」からEP『Rain Dance』を発表。ジャズ・アンサンブルと、ダブを通過した宅録的なフィーリングが溶け合うことで、スリリングな音像を描いている。


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