ブリング・ミー・ザ・ホライズンのオリーが語る、衝撃カムバックの真意、日本との絆

ブリング・ミー・ザ・ホライズン

ブリング・ミー・ザ・ホライズン(Bring Me The Horizon)『POST HUMAN: NeX GEn』は今のロックの世界で最も待ち望まれ、最も自由なクリエイティブを形にできたアルバムではないだろうか。2020年の『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』に続く、POST HUMANシリーズ第2弾となるこのアルバムは、リリースが延期される中、5月24日の真夜中(現地時間)に前日の告知のみで突如リリースされた。昨年バンドは日本でNEX_FESTを主催し、ジャンル超えのコンセプトが日本との親和性も高く、画期的なフェスとして大成功を収めたばかりだ。そして今年のサマーソニックではヘッドライナーとして帰ってくる。ボーカルのオリーことオリヴァー・サイクスに話を聞いた。

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壮大なコンセプトアルバムという挑戦

ー遂にアルバムがリリースされましたね。アルバムに先行して「DiE4u」「sTraNgeRs」「LosT」「AmEN!」「DArkSide」「Kool-Aid」とリリースしてきましたが、これらの曲の制作プロセスからアルバムの完成に至るまで、アルバム全体の構想、イメージ、サウンド、リリックのテーマなどはどのように形になっていきましたか?

オリー 元々プランしてたことはいろいろあったんだ。でも自然なタイミングがあってわかったこと、形になったこともあって。「DiE4u」にしても、アルバム用に最初に作った曲だけど、アルバムの中ではラストの前の曲として収録されてる。全体のストーリーの流れで、この曲は初めからアルバムの最後の方に入れるつもりだったんだ。それで最後に作った曲と比較して聴いてみると、この曲は今回のエクスペリメント(実験)が始まった最初の曲という感じがするんだよね。しかもサウンドがきれいにまとまっていない。アルバム全体が一つの壮大なエクスペリメントという感じで、この曲では特定のサウンドとフィーリングをいろいろなやり方でつかもうとしてるのがわかるよ。



『NeX GEn』の制作を始めてから終わるまでの3年間で、全体のコンセプト、ストーリー、アイデア、そういったもののすべては大きく路線変更した。僕たちの作ったAIキャラクターのE.V.E.にしても、今ではこのストーリーの中で重要な役割を果たしてるけど、当初の予定にはなかったものだ。アルバムを作っていく中で、あまりにも多くのものが集まり、『POST HUMAN』のアイデアとして積み重なることによって、大きな流れが生まれることになったんだ。それはまるで映画を観てるのと同じ感覚で、そこではストーリーが展開されて、特定の曲が特定の位置に収まってる。今改めてアルバムを聴くとクレイジーだと思うね。このアルバムは間違いなく僕がこの通りにやりたいと思ったものだけど、同時に、自分がイメージしてたものとは全く違うアルバムにもなってるんだ。

ー確かに、すでにリリースした曲も、アルバムを通した流れの中で聴くと全く違って聴こえますね。「DiE4u」はラストの曲の前で完璧だと思うし、「YOUtopia」からの「Kool-Aid」、「n/A」からの「LosT」も全く違って聴こえるし、全体のストーリーの中で聴くと新たな意味合いが出てきましたからね。

オリー そこが僕の言いたかったことなんだ。「AmEN! (feat. Lil Uzi Vert & Daryl Palumbo of Glassjaw)」も良い例で、「AmEN!」の前に位置する「R.i.p. (duskCOre RemIx)」はまだ出来てなかったものの、アルバムの中でどこに位置すべきなのかはすでにわかってた。同様に、「DArkSide」をシングルとしてリリースした時、1曲単位で聴いても良い曲だし、ワクワクもしたけど、同時にアルバムの中の1曲として聴いたら、もっと大きな意味を持つだろうと思ってた。それで、「Kool-Aid」をリリースした後にレーベルに対して、「もうこれ以上曲はリリースしない。アルバムとして聴いてもらいたいから」って伝えたんだ。このアルバムはパズルのどのピースも重要だからね。強力なアルバムを作りたいというアイデアは常にあったけど、カッコいい曲を集めただけのものにはしたくなかったんだ。面白いのは、「liMOusIne (feat. AURORA)」が「DArkSide」の前に位置することで、「DArkSide」には新たなエネルギーが生まれていて。「R.i.p. (duskCOre RemIx)」にしても、続く「AmEN!」に全く異なるコンテクストを与えてるし、曲単位で聴いてた時には想像もつかなかったことになってる。このアルバムはBGMとして聴くようなものではなく、じっくり聴いて、ハマってもらって、何度も何度も聴いて、それで徐々にわかってもらえるようなものになってると思う。











ーしかもアルバムをリリースしただけでは、ストーリーが完結していない感じですよね。今話に出たAIのE.V.E.はInstagramにも出てきたし、ファンが未発表曲やデモ音源を探せるようにしてあるし、まだまだいろいろ秘密が隠されてそうですね。

オリー 壮大なストーリーが語られていくことになると思うよ。僕は曲とリリックを書く時、常にコンセプトアルバムを作ることを意識してる。でもそれがコンセプトアルバムであることは誰にも言わない。僕にとってのコンセプトアルバムだし、僕がストーリーを作って、その曲の持つ意味を考えるわけだからね。でもコンセプトアルバムを作るのは常に恐ろしいことだとも思ってる。みんなが聴きたいのは音楽だけだろうと思ってしまうからだ。それでコンセプト自体をアルバムの中に隠すことにしてるし、まだ誰も理解、発見できてないものがあるんだ。アルバムがリリースになった今も、まだまだあるから、ファンはいろいろ発見していく楽しみがあると思うよ。気になる人、もっと知りたい人、もっと発見したい人なら、どんな人でもこのアルバムの世界に入ってこれるはずだ。

僕はこのアルバムをセルフヘルプのアルバムだと言ってるし、実際にその通りになってる。これは僕が強く信じてることなんだけど、誰かを救いたいと思っても、その人が救ってほしいと思わない限り、本当に救うことはできないんだよね。僕はずっとセルフヘルプ、セルフラブ、自己肯定感についてのアルバムを作りたいと思ってた。でもそれを人が聴きたいと思わない限り、伝わることはないと思うんだ。だからアルバムの中に隠すことにしてるんだけど。今回このアルバムをリリースできてうれしいのは、ここからまだまだ続くものがあるからなんだ。

ーアルバムのフィジカルリリースは9月になりますが、フィジカルの方にもいろいろ仕掛けがありそうですね。

オリー フィジカルはかなりヤバいことになると思うよ(笑)。今のデジタル世代の音楽の聴き方は当然昔とは違うものだ。だから過去3枚のアルバムでは、僕はフィジカルに対して抵抗があった。気候危機とかゴミ問題なども関わってくるし、日本は別としても、今の時代に誰がアルバム、CDを買うんだろう?と疑問に思ってたんだ。でも今回のアルバムはストーリーの中にディープなディテールがあるから、それを出したくて。それがあるから、今までで最高にクレイジーなフィジカルを作りたいと思うようになった。今までは自分のアルバムを所有したいと思ったことがなかったけど、このアルバムは自分でも欲しいくらいだ。見た目もカッコいいし、アルバムを開いたらもっといろいろなものが出てくる。こんなに誇りに思えたことも、ワクワクしたこともないくらいだ。このアルバムは音楽的にも、クリエイティブにおいても、初めて自分の中のインナーチャイルドが求めてるものになったと思う。4歳の時の自分がワクワクしたものは何だったのか。その時の音楽はどういうものだったのか。どういうサウンド、どういう歌詞だったのか。そういうことのすべてに触れていったんだ。

子供の頃を思い出すと、CDはまさに僕の世界だった。週末になると必ずレコード店に行ってたし、いつだってカッコいいアートワークのCDに惹かれてた。『千と千尋の神隠し』のDVDジャケットにしても、キャラクターが川を覗き込んでるように見えるよね。そういうクリエイティブなものが本当に好きで。メディアの持つ可能性の境界線を超える究極の表現が大好きなんだ。僕はそういうレベルまで持っていきたいと思っていて。だから今の僕は、CDは有害なゴミだとか、環境にとって悪いものだとは思わない。それどころか、一生大切に持っておきたいものを作りたいくらいで。今回、アルバムに対してそういう気持ちになれてるのもうれしいんだ。



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