キング・クリムゾン「21世紀のスキッツォイド・マン」当事者たちが明かす50年目の真実

集団作曲とパッチワークの過程(2)

「ミラーズ」と呼ばれるインストのセクションもまたパッチワークからなる。せわしなく動き回る血気盛んなテーマはフリップによって持ち込まれ、続いてまた別の、ほとんどビッグバンドのようなアップテンポのリフになめらかになだれ込む。このリフは、マクドナルドがキング・クリムゾン加入前に陸軍でジャズを演奏していた頃に書いたものだ(アルバム・バージョンでは、この転換は2分25秒ごろに起こる)。

「当時、スタン・ケントンとかいった類のビッグ・バンドにはまっていた」とマクドナルドは語る。「当時はまだ陸軍にいた。『スリー・スコア・アンド・フォー』という断片を書いていたのを、『スキッツォイド・マン』のなかにとりいれた。あのセクション全体が私のもので、既に書き上げていたスコアから拝借してきたんだ」



ジャイルズはこうした多様なセクションのあいだのつなぎをつくりあげるのに重要な役割を果たした。例えば、メインのヴァース・リフから「ミラーズ」へと移るときに徐々に演奏をスピードアップしようと提案したのは彼だった。

ジャイルズが指摘するように、「スリー・スコア・アンド・フォー」のテーマに続くギターとサックスのソロには前もってのロードマップが存在していなかった。「ソロ・セクションはまったくもってフリーでオープンエンドなもので、小節数やソロの長さの限度は決まっていなかった」と彼は記す。「私たちは、自分たちの勘を頼りにして離陸し、飛行していた」

このパッセージは、ジャイルズによれば、「グレッグのほとばしるようなベースラインにあわせて、半分ジャズっぽい感じで、高速な四分の六拍子で即興し実験する自由」を与えたのだという。「ロバートやイアンの突飛なソロに触発されたり、それに並走したりするのもまた楽しかった。彼らのソロはやりたい放題のまま膨れ上がることもなければ、彼らの自然なサイクルを逸脱してしまうこともなかった」


1969年のキング・クリムゾン:左からロバート・フリップ、マイケル・ジャイルズ、グレッグ・レイク、イアン・マクドナルド、ピート・シンフィールド(Words)(Photo by Willie Christie)

ソロが終わると、「スリー・スコア・アンド・フォー」に少しだけ戻った後、バンドは、フリップの手によるまた別のインストのワークアウトへと移る。録音では、4分38秒ごろに始まる部分だ。ここでは、4人のミュージシャンは厳密な隊列を組んで、フレーズとフレーズの間にドラマチックな休止を残す。

「ロバートがこの入り組んだギターのピースをつくったんだ、私たちが『ストップ・スタート』と呼んでいる部分だ」とマクドナルドは回想する。「このセクション全体で私たちは完全にユニゾンしているが、これはもともとはロバートがギターの練習のために考えたもので、それを私たちはバンド全体で演奏するように移植したんだ」

「平凡でつまらないロカビリーのベースとドラムのパターンでは不足だったろう」ジャイルズはストップ・スタートセクションに関してこう書く。「だから私たちはどうしようかと頭を掻いていたのだが、私がみんなでユニゾンで演奏して含蓄のある休止を堪能しようと提案した」

そして、これもまたジャイルズが提案したことだが、バンドはストップ・スタートセクション全体をもっと小さな音量で反復し、次いでジャジーなスネアドラムの装飾が導いて「スリー・スコア・アンド・フォー」に入っていく。

5分45秒ごろ、楽曲の中心になる重々しいリフが強引に舞い戻ってくる。区切りをつけるのは、ジャイルズの表現にならえば、「重量級のツーバス」だ。最後のヴァースを終えるとバンドはふたたび加速。ただしここでの加速は2つの炸裂するノイジーでアブストラクトな即興で終わる。

「私はフリージャズ的なカオスを盛ったクレッシェンドを提案したんだ。偽のエンディングの後に短い休止が入って、すると2番めのカオティックなクレッシェンドが現れて作品を締めくくる」とジャイルズは語る。「デューク・エリントン・オーケストラがこうした二重のエンディングを数年先駆けてやっていたのを聴いて、とても感銘を受けた――だから、デューク氏に敬意を評して、ダイナミクスをちょっと拝借しようじゃないか、と」

Translated by imdkm

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