ビートルズ伝説の幕開け、『プリーズ・プリーズ・ミー』完成までの物語

ザ・ビートルズは、デビュー・アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』に収録された楽曲の大半を、一日のスタジオ・セッションでレコーディングした。(Photo by Hulton-Deutsch Collection/Corbis/Getty Images)


午後7時30分〜8時15分:「ホールド・ミー・タイト」

夜のセッションは、途方もない時間の無駄から始まった。ひとつのオリジナル曲に13テイクもかけたものの、結局アルバムには収録されなかった。「ホールド・ミー・タイト」は、マッカートニーが中心となって数年前に書いたアップテンポのロックだった。ステージのレパートリーにしていたものの、自分たちでもベストな作品だとは思っていなかった。作者であるマッカートニー自身も、同曲は「シングルにはならない、アルバムを埋めるための曲だ」と振り返っている。レノンもまた、同曲に対しては手厳しい評価を下している。晩年(1980年)彼は、「あれはポールの作品だ。出来の悪い曲で、面白いと思ったことは一度もない」と語った。

恐らくそういう理由から、『プリーズ・プリーズ・ミー』セッションで同曲は上手くいかなかったのだろう。その後、この日の録音テープは破棄されたが、セッション・メモからは、出だしの失敗やブレイクダウン、エラー箇所を補うピースなど、苦労の跡が伺える。最終的に、テイク9と編集用ピースとなるテイク13を併せてアルバムに収録可能なレベルにまで仕上げたものの、ボツになった。同曲は再レコーディングされ、同年後半にリリースされた次のアルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ』に収められた。



午後8時15分〜8時45分:「アンナ」

「ホールド・ミー・タイト」でのフラストレーションを忘れ、お気入りのカヴァー曲に取り組む準備ができた。マーティンやエプスタインからの要望が強かった「蜜の味」は別にして、カヴァー曲はバンドに多くのインスピレーションを与えた。アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』に収録されたカヴァー曲は全て、黒人ソウル・アーティストによって演奏され、ポピュラーになったものだった。「ビートルズは“R&Bの小楽団”だ」というマッカートニーの主張を裏付ける事実といえる。

レノンが歌うこの日最初のカヴァー曲は「アンナ」だった。同曲は、アラバマ出身のカントリー・ソウルのパイオニアで、レノンがヒーローと崇めるアーサー・アレキサンダー作の曲である。何度も演奏を重ねてきたおかげでアレンジには磨きがかかり、ライヴでのレコーディングは比較的スムーズなものだった。オリジナルでフロイド・クレイマーがピアノで弾いていたイントロは、ハリスンがギターに置き換えた。ハリスンもまた、アレキサンダーの大ファンだった。「彼のレコードは何枚か持っていて、ジョンも3、4曲歌っていた」とハリスンは、ドキュメンタリー『アンソロジー』の中で語っている。「アーサー・アレキサンダーには独特のドラム・パターンがあって、僕らもコピーしようとしたが、完璧にはできなかった。そこで、オリジナルと同じように聴こえるような変わった方法を編み出したんだ」 同曲のレコーディングは、テイク3で完了した。



午後8時45分〜9時:「ボーイズ」

当時の業界の風潮として、全てのポップ・グループにはひとりのフロントマンが必要とされた。しかしマーティンは、“XXXX(フロントマンの名前)・アンド・ザ・ビートルズ”というバンド名を拒絶した。4人組にとっては永遠に感謝すべき決断だった。そうすることで、雇われのバック・バンドではなく、ひとつの独立したグループとしての地位を確立した。バンドも4人を平等に扱う考え方を採り入れ、アルバム内に、それぞれのメンバーがリード・ヴォーカルを担当する場を設けた。そのひとつが「ボーイズ」で、スターの出番だった。ザ・シュレルズのB面曲である同曲は、ビートルズ加入前のスターが、ロリー・ストーム・アンド・ザ・ハリケーンズ時代にカヴァーしていた。マッカートニーは同曲について、「大衆受けする曲だ。“今、男の子の噂話をしている!”と、僕らが女の子目線かゲイの歌を歌っている。でも僕らは一度も聴いたことがなかった。ただ素晴らしい曲だ」と述べている。

ステージと同様、スターはドラムを叩きながら歌ったが、そう簡単なことではない。しかし冴えたスターは一発で決めた。この日で唯一、1テイクで完了した曲だった。「僕らは、1stアルバムへ向けたリハーサルなどしなかった」とドラマーは振り返る。「僕にとっては“ライヴ”の感覚だった。頭から曲を演奏し、それぞれの曲に特徴のあるサウンドが付く。後はひたすら演奏し続けるだけだった」


Translated by Smokva Tokyo

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