ビートルズ伝説の幕開け、『プリーズ・プリーズ・ミー』完成までの物語

ザ・ビートルズは、デビュー・アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』に収録された楽曲の大半を、一日のスタジオ・セッションでレコーディングした。(Photo by Hulton-Deutsch Collection/Corbis/Getty Images)


午前10時45分〜11時30分:「ゼアズ・ア・プレイス」

バンドは明らかに、比較的新しいこの楽曲に大きな期待を寄せていた。そのため、レコーディング順をこの日の最初に持ってきた。同曲は、数カ月前にマッカートニーの自宅のリビングルームで書かれたもので、ミュージカル映画『ウエスト・サイド・ストーリー』のサウンドトラックに直接的な影響を受けている。「ゼアズ・ア・プレイス」のタイトルは、サウンドトラック中の曲「サムホエア」の最初の一節から取られている。演劇の傑作における、大人たちの好奇の目から逃れて平和な場所を求める若者らしいあこがれの世界を、さらに掘り下げた。「僕らの場合、その場所は心の中にあった。抱き合ってキスするために回り込む階段の陰ではなくね」とマッカートニーは、公式バイオグラフィ『メニー・イヤーズ・フロム・ナウ』の中で振り返っている。「それが、僕らが書いたものとの違いだ。僕らはもう少し知性に訴えかけているんだ」ビートルズのデビュー・アルバム用に敢えて最初にレコーディングされた曲であることを考えると、その成熟した完成度は、これから生まれる素晴らしい作品を象徴していた。



レノンが「モータウンのブラック・ミュージックのようなもの」と表現する同曲は、アルバムのハイライトのひとつであると同時に、シングルカットされる可能性もあった。最初のテイクは完全なランスルーで、イントロにレノンのハーモニカがない以外は、ファイナル・バージョンとほぼ同じものだった。当初レノンのハーモニカによるフレーズは、ハリスンがギターで弾いていた。しかしオクターブ奏法によるフレーズは難易度が高く、初めのいくつかのテイクでは、ほとんど上手く弾けていない。「プリーズ・プリーズ・ミー」にも似たイントロを、テイクの合間にハリスンが練習しながら指慣らししている様子を含む音源も残されている。

ヴォーカルもまた壁に行き当たった。まだ午前中だったにもかかわらず、レノンの声には痛めた喉の影響が出始めていた。5テイク目の直前、「ゼェェェエ」と伸ばすアカペラ・パートについて、レノンからマッカートニーに対し、「ビートに合わせた方がもっと良くなる。頭の中でビートを感じた方がいい」と要求する声が聞こえる。一方のマッカートニーは数小節歌ったところで曲を中断し、「ダメだ。最初の部分が」とぶっきらぼうに言い放った。テイク9を迎える頃にはメンバーの集中力が切れ、ハイトーンのハーモニーを歌うマッカートニーの声も震え始めていた。そしてテイク10に入る時、ベーシストが「テイク15」と皮肉混じりにつぶやく。明らかにいらついていた。

ここでは、アルバムに収録されたバージョンのベーシックな部分をレコーディングし、レノンのハーモニカはその日中に後から追加される予定だった。昼を目前にしてバンドは、アルバム収録曲の候補となる別のオリジナル曲に取り掛かることにした。

Translated by Smokva Tokyo

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