ビートルズ伝説の幕開け、『プリーズ・プリーズ・ミー』完成までの物語

ザ・ビートルズは、デビュー・アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』に収録された楽曲の大半を、一日のスタジオ・セッションでレコーディングした。(Photo by Hulton-Deutsch Collection/Corbis/Getty Images)


午前11時30分〜午後1時:「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」

次にレコーディングしたのは、当時キャバーン・クラブでよく演奏していた曲だった。レコーディング・エンジニアのノーマン・スミスが、「次の曲は『セブンティーン』です」と告げる前に、マーティンが「この曲はタイトルを変えた方がいいな」と、ぼやく声がコントロールルームから聴こえてくる。それ以降「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」として知られるようになる同曲は、バンド初期のお気に入り曲を上手くブレンドし、完全に新しいものとして融合している。



歌詞的には、コースターズ「ヤング・ブラッド」の“I saw her standing on the corner...”という部分や、チャック・ベリー「リトル・クイニー」の“She’s too cute to be a minute over 17”へのオマージュが見られる。さらに“How could I dance with another / Since I saw her standing there”の部分は、ディキシーランド・ジャズの「聖者の行進」(原題:When the Saints Go Marching In)の“I want to be in that number / When the saints go marching in”と同じ韻律で作られている。「聖者の行進」は、ビートルズがロック・バージョンでよくカヴァーしていた曲のひとつだ。後にマッカートニーは、ベースラインは別のチャック・ベリーの曲「アイム・トーキング・アバウト・ユー」(1961年)から“盗用した”と告白している。同曲もまた、当時のバンドのセットリストに入っていた。「チャック・ベリーと全く同じラインを弾いてみたら、自分たちの曲に完璧にフィットしたんだ」と彼は、公式バイオグラフィ『メニー・イヤーズ・フロム・ナウ』の中で語っている。




ライヴ・レコーディングしたファースト・テイクが、実質的にファイナル・バージョンとなった。ここで初めて登場した“oooohs”という有名なファルセットは、モップトップのヘアを揺らして歌う姿と共にバンド初期のトレードマークになった。しかしマーティンは、念のためもう1テイクレコーディングさせた。テイク2では、“how could I dance”、“she wouldn’t dance”、“I’ll never dance”と歌うコーラスの順序をマッカートニーとレノンがうろ覚えだったため、上手くいかなかった。このテイクは勢いがあったが、マッカートニーは曲の終わりを元気のないベースのスライド・ダウンで締め、レノンも暗い声で「酷い」とつぶやいた。マーティンはその場の雰囲気を救うべく、バンドに編集用のパーツをレコーディングさせた(テイク3)。さらにテイク4と5では、ハリスンのギター・ソロのランスルーをレコーディングした。テイク6が途中で中断した時、緊張感が表面化した。「速すぎる」とマッカートニーは不満を漏らす。「いいや、君が歌詞を間違えたんだろ?」とコントロールルームからの声が指摘する。「そうさ。でもとにかくテンポが速すぎるんだ」とマッカートニーは反論した。

テイク7は、マッカートニーの「速すぎるんだよ!」という怒りの叫びで中断した。しかしすぐ申し訳なさそうに、彼の完璧主義者的な一面を見せる。「またごめん、でも…」と言いながら、曲のちょうどよいテンポを聴かせた。朝から調子の良かったリンゴ・スターも、テイク8でつまずいた。スターがハイハットのタイミングを間違えたために曲が途中で止まると、マッカートニーが「何があったんだ?」と不満を漏らした。忍耐が限界に近づいたマッカートニーは、テイク9の出だしを「ワン、トゥー、スリー…“フォー!”」と力を込めてカウントした。

おかげで勢いが付いたため、マーティンは後にそのカウント部分をテイク1の頭へ持ってきた。その7年前にデビューしたエルヴィス・プレスリーの“Well, it’s one for the money, two for the show…”という低く渋い歌声以来、ロックの最も素晴らしいイントロのひとつが完成した。

Translated by Smokva Tokyo

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