2度の助演男優賞受賞、マハーシャラ・アリという生き方

当初は『きみの帰る場所アントワン・フィッシャー』(アントワン・フィッシャー役)や『アリ』(ドゥルー・バンディーニ・ブラウン役、最終的にこの役はジェイミー・フォックスに決まった)など、いいオーディションがあった。「その後は何もなくて。俺はエネルギーに満ち溢れていて仕事ができる才能があると感じていた。でも何も起こらなくて完全に消沈してしまったんだ」と彼は語る。ブルックリンの屋根が壊れたテレビもない違法なサブレットの部屋に住んで、オートミールとインスタントラーメンを食べて生きていた。サンクスギビングに地元ベイエリアの祖母に会いに行っている間に、管理人は彼の所持品をゴミ袋に詰めて地下室に入れ鍵を掛けた。彼は戻らなかった。

代わりに彼はロサンゼルスに行き、そこでネットワーク番組の脇役にありつき、その後、他のネットワーク番組の脇役の仕事がさらに入ってきた。そして、映画の脇役も入るようになった。彼に訪れた最初の転機は2013年の『ハウス・オブ・カード 野望の階段』のワシントンDCの有能なロビイスト役だ。しかし、その時ですら俳優の仕事はそれほど金になるものではなかった。「ケビン・スペイシーなら1エピソードで100万ドルぐらい稼ぐかもしれないけど俺は25,000ドル。税金、エージェント、弁護士、マネージャーへの支払いをしたら手元に残るのは8000ぐらいだし他で働くこともできない。だからこの4ヶ月間は金を貯めることもできないし他の仕事もできない。家を買いたくても子供が欲しくても学資ローンを返済したくても、もっと上に行かない限り無理なんだ」とアリは言う。

中でもよくなかったのはクリエイティブ的な部分に不満があったというところだ。「俺はうんざりしていたんだ…。チャンスがもらえなかったとは言わないけど問題はチャンスの『種類』だね。2,3シーンをやる機会を監督からの『ナイス』なメモ書き付きでもらった。でも俺は言いたいことはもっとあると感じていたんだ」とアリは言う。

彼は自分がもっと大きなことをする運命にあるという自信を持っていた。「バスケットボールで俺にセンターでやらせるコーチがいた。でも自分に合ったポジションはシューティングガードだってわかっているんだ」と彼は言う。そして、彼は『ハウス・オブ・カード』を辞めさせてほしいと頼んだ。「彼らは驚いたと思う。やめる役者はほぼいないのに『俺はこのヒット番組を辞めたい』のだからね。」しかし、こう続けた。「俺はただ自分が主役クラスだと感じていたんだ」と。

同じ年に彼は『ムーンライト』の仕事を手に入れた。

天文台に戻るがアリがパーキングメーターの時間切れを気にしていたのでコーヒー店に移動することにした。そこで『グリーンブック』の話題になった。実話に基づいたこの映画でアリは1962年にアメリカ南部をツアーする天才ピアニスト、ドン・シャーリーを演じている。用心棒としてブロンクス出身の(ヴィゴ・モーテンセン演じる)トニー・リップという屈強な運転手を雇い、奇妙な2人組で旅をするのだ。笑いあり涙あり、今までの常識は覆され、差別主義者は天罰を受ける。これは観客とアカデミー賞が歴史的に見ても絶賛するような気持ちのいい映画なのである。ただアリはこれ以上、白人が黒人の人種差別との戦いを助ける映画を作るべきではないと主張した。

「私たちが知らなかったことが本当にたくさんあった」と他の共同脚本家と同じく白人であるファレリーは言う。彼はシャーリーが疑いながら初めてフライドチキンを食べることに同意するシーンを挙げて「本当に人種差別になってしまうんじゃないかって神経質になっていた。マハーシャラは私を本当に…教育してくれたとは言わないけど、最もいろんなことを学ばせてくれた。一緒にセリフを一行一行確認して、彼はちゃんとした形にするのに本当によく協力してくれた」と語った。

「俺にとってのメインテーマは救世主的な部分だった。ドンが臆することのない力強い存在であることをはっきりと表現したかったんだ。同じようなのはみんなもうたくさん見ただろ?もう2018年だ。人にはもう見たくないものだってある。『公民権と人種差別を扱っているのか?白人は出てくるのか?興味ないな…』ってなるだろう」とアリは言う。

Translated by Takayuki Matsumoto

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