2度の助演男優賞受賞、マハーシャラ・アリという生き方

アリがそのカードを見つけた時、彼の父が亡くなってから20年が経っていた。「それなのにすごく心に来るものがあったんだ。多くの親にとっては子どもとは中心にあるものだけど俺はどちらかというと父の外周にいた。でも思い返してみると俺は父から必要なものはちゃんと受け取っていたことに気づいたんだ。少しも怒りの感情はないし、父が自分の道を貫いたことでより多くを教えてもらうことができたと感じている。ある意味、俺はそれを受け継いでいると感じている」とアリは言う。

ある秋の夜、アリは1996年に卒業したオークランドの東側の郊外にある小さなカトリック学校、セント・メアリーズ大学のラウンジを訪れた。奨学金の資金を集めるための『グリーンブック』の上映会の開催するため、そして、その多くが自身の家族の中で初めて大学に行く「ハイ・ポテンシャル・プログラム」の学生と面会するためにキャンパスを訪れたのである。アリ自身もこのプログラムの第1期生であり、今でもそれは彼にとって大きな意味を持っている。アリはキャンパスの異文化センターでマルコムXの壁画とプライドフラッグに囲まれて自身の遍歴を学生に語る。「信じないかもしれないけどスペイン語の2期目を取るのが嫌だったから俺は自分にとって初めての演劇の授業を取ったんだ」とアリは話す。

アリはバスケットボールの奨学金でセント・メアリーズ大学に行ったが、すぐに選手が不当な扱いを受けていると感じ幻滅した。教育と家族に関わる誘い文句で入ることとなったが「実際に入ったら突然自分が使い捨ての物みたい、人扱いされていないと感じた。特に黒人の少年として騙されたと感じたんだ」と彼は言う。

彼はバスケットボールから離れていくと同時に演劇を始めた。演劇科の教授レベッカ・エングルは彼が多様性に関するキャンパス内討論会で話しているのを見て自分の授業を取ることを勧めた。アリはスペイン語より演劇の授業の方がGPA3.0をキープできる可能性が高いことに気づいて同意した。(「そういえばその教授は俺にBを付けたんだ。それは今でも少し根に持っているよ」と笑いながらアリは言う。)

いずれにせよ彼はのめり込んで、学内公演を何度か経験しニューヨーク大学の大学院課程のオーディションを受けることとなった。3年後、彼は初めての大きな仕事を勝ち取った。ジェームズ・アール・ジョーンズが初代を演じ、ピューリッツァー賞を受賞した演劇作品『ボクサー』の2000年版リメイクの主役である。ニューヨーク・タイムズ紙は彼の演技を「感動的」と評し、バラエティ誌は「ずば抜けた才能」と言明した。アリは自分が一人前でないことは自覚していた。その後18年間、彼が演じた主役を演じることはなかった。

サンプル
2000年のワシントンDC版リメイク『ボクサー』でボクサー、ジャック・ジェファーソンを演じるアリ。彼にとって初めての主役で絶賛を受けたが次に主役を勝ち取るまでに20年近くかかった。Photo credit: Scott Suchman/Arena Stage, Washington, D.C.

Translated by Takayuki Matsumoto

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE