石若駿の足跡を辿る、日本のジャズと音楽シーンの人物相関図

 
昨年のラブシュプで実現した、荒田洸(WONK)と石若のドラムバトル。荒田は今年、DJとしてラブシュプ出演する(Photo by Takahiro Kihara)

海外勢/国内次世代との交流、ラブシュプについて


―あとは2014年にテイラー・マクファーリンと共演したのを皮切りに、いろんな海外アーティストと共演してきましたよね。日本のミュージシャンと一緒にやるとなったとき、石若さんにいつも声がかかってきた。

石若:そうですね。カート・ローゼンウィンケル(2016年)、ジェイソン・モラン(2017年、2019年)、ジェイムズ・フランシーズ(2019年)、ファビアン・アルマザン(2020年)……。テイラー・マクファーリンと共演したくらいのとき、ダドリー・パーキンスというStones Throwのラッパーも日本に来ていて。「急にレコーディングしたいって言ってるんだけど」とDJ YUZEさんから連絡が来て、僕と宮川純が深夜にスタジオに呼ばれて、ダドリー・パーキンスが携帯を見ながらラップするみたいなセッションを1曲やったこともありました。


テイラー・マクファーリンと石若の共演(2014年)


ジェイソン・モランと石若の共演(2019年)


井上銘(g)、須川崇志(b)、石若によるCleanup Trioのライブ映像(2017年、ニラン・ダシカがゲスト参加)。この3人でカート・ローゼンウィンケルとの共演を果たした。

―リチャード・スペイヴンと一緒に叩いたりもありましたよね。

石若:2015年の東京Jazzで、沖野修也さんのKYOTO JAZZ SEXTETと共演したときですよね。沖野さん周りの仕事も結構やりました、Monday満ちるさんのバンドで一時期演奏したりとか。あとはその話でいうと、サンダーキャット……一緒にやりたかった。

昨年の来日公演で、石若さんと共演する可能性があったということ?

石若:「ジャスティン・ブラウンが日本に来れなさそうで」と言われて予定を空けたんですけど「ルイス・コールが来れることになりまして」とのことで。ただ実際に観たら、ルイスで(サンダーキャットは)良かったと思いましたね。僕だったらちょっと違う感じになっていたでしょうし、お客さん的にもそうなのかなと。




Answer to Remember、昨年のラブシュプにて(Photo by 中河原理英)

―そういえば最近は、若い世代のジャズミュージシャンに取材すると、みんな「石若さんを見て育った」みたいな話をするんですよね。例えば中村海斗さん。

石若:中村海斗は僕より9つ年下で、彼が5歳くらいの頃から知ってます。彼はずっと群馬にいたんですが、東京にライブを観に来るようになって、「高田馬場にイントロっていうセッションできる場所があるから行ってみたら?」と教えたら、イントロにしょっちゅう来るようになったんです。ライブを観に来てくれる若い世代は大事にしたいなと思っていて。他にはドラマーの高橋直希くんとも、彼が5〜6歳のときに出会ってます。「Mappy」こと甲田まひるとの出会いもイントロですね。

あとは、日野さんが世田谷区の中学校でビッグバンドを教えていて、僕もそれに関わっていたので、その中学校出身のドラマーである林頼我とは彼が中1のときに出会いました。

―他には?

石若:佐々木梨子と初めて会ったのは、彼女が中学1年生くらいのとき。ビュッフェ・クランポンという木管楽器会社のセミナーがあって、僕がドラムで手伝いに行った時に知り合いました。当時から彼女はめちゃくちゃ吹いていてすごかった。その後もイベントやセッションで一緒に演奏したりと、繋がりがずっとあります。

平田晃一冨樫マコトは札幌のビッグバンドの後輩ですね。関西の天才高校生ジャズプレイヤーと呼ばれていた梅井美咲石井ひなたは、日野さんのバンドで明石市に行った時に観に来てくれて。そこで日野さんが「楽器をやっているやつは上がってこい」と言ったとき、その二人が制服姿で出てきたんです。今でも交流がありますね。

―ジャズシーンは80代の日野皓正さんから今の10代まで繋がっている、そう考えるとすごいですね。

石若:日野さんのオープンさにも、自分はかなり影響を受けていると思います。「楽器を持っていたらとにかく上がってこい」とか「まずは一緒にやろう」みたいなのは常に意識しています。


中村海斗と佐々木梨子が参加したカルテットのライブ映像(2023年)


甲田まひる「クレオパトラの夢」(2018年)、石若と新井和輝が参加


梅井美咲トリオfeat.安藤康平(MELRAW)のライブ映像(2022年)


石井ひなた「My Place」(2022年)

―石若さんはジャズに軸足を置きながら、いろんなフィールドで活動してきたわけですよね。そんな石若さんから見て、日本のジャズシーンはこの10年間でどう変わったと思いますか?

石若:ある意味、オープンになったと思います、いろんな音楽が混ざったおかげで「この表現もジャズって思えばジャズだし」って感じることが増えました。世界的にもそうだったけど、日本も同じようにそうなってきた。日本の多くのジャズミュージシャンは外向きに、社会に、海外に向けて自ら積極的に発信したり行動したりする人がかつては少なかったのですが、今はもっと視野が広がって色々な個人的な動きが感じ取れるようになってワクワクが高まっていると思います。ただ、それを「自分の表現」としてバッチリと隙がなく提示している日本の同世代のジャズミュージシャンはまだ多くない気がしています。

アーロン・チューライが以前、「日本のジャズとは何かを言語化して世界に提示するのが大事」とよく言ってました。彼は日本に来る前、オーストラリアのメルボルンでそれを実践していた。「日本から世界に発信できる音楽がやりたい」となったとき、それをどう実現していくのか。僕らの世代はそれを示さなければいけない。その責任を身に染みて感じる10年ですね。


ラブシュプのTHEATER STAGE(Photo by 伊藤郁)

―最後に、ラブシュプに2年連続で出演するわけですが、フェスに対する印象は?

石若:去年出た時に、すごくいいなって思ったんです。海外アーティストが間近にいるジャズフェスには出たことがなかったので、僕がイメージする憧れのフェスに出られた実感があって。YouTubeにライブ・アンダー・ザ・スカイ(1977年〜1992年にかけて毎年開催された日本のジャズフェス)の映像とかあるじゃないですか。あの場所に近いなって去年感じましたね。だから、関わることができてすごく嬉しい。

ロバート・グラスパーとAnswer to Remember、昨年のラブシュプで記念撮影。左から3番目がジャスティン・タイソン。

―今年の出演ラインナップについてはいかがでしょう?

石若:ディナー・パーティーがすごく楽しみですね。どうなっちゃうんだろう!? ドミ&JD・ベックをやっと日本で観られるのも嬉しくて、間近で圧倒されたいです。凄いテクニックとアイデアを生で観て、刺激をもらいたい。目の前で起きていることを野外で感じられるのは、ライブハウスで観るのともまた違うでしょうし。

そういえば去年、ジャスティン・タイソンがロバート・グラスパーのグループで叩いていたとき、「どれだけの音量を出してるんだろう?」とステージ袖で観てみたら、めっちゃ音が小さくて。「うるさいとそれ以上は(PAが音量を)上げられないけど、小さいと上げられるんだ……だからこの音色なのか!」って衝撃を受けましたね。客席で聴くとめっちゃかっこいいサウンドに出来上がっていて「なるほど!」って。

―そんな高度な学びがあったんですか。そういう体験が今年もできたら最高でしょうし、石若さんにもドミ&JD・ベックを驚かせてやりたいって思いがあるんじゃないですか。

石若:Answer to Rememberのアルバムを出したとき、JD・ベックからDMが来たんですよ。「Yo what’s up?」みたいな感じで。その時に「日本に来るときは教えてね」みたいなやり取りをしたんです。だから、やっと彼に会えるって意味でも楽しみですね。




石若みずから2020年〜2022年の参加作をまとめたプレイリスト。DinoJr.、絢香、森山直太朗、TOMOO、Negicco、HIMI、Naz、高井息吹、ベルマインツ、吉澤嘉代子、佐藤千亜紀、映秀。、ELAIZA(池田エライザ)、Cocco、マハラージャン、M!LK、粗品、YUKI、TENDRE、AAAMYYY、Rei、中田裕二、MIZ、秋山黄色、Ross Moody、アイナ・ジ・エンド(BiSH)、秩父英里、七尾旅人、藤原さくらなど。







『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023』
日程:2023年5月13日(土)、5月14日(日)12:00開場 / 13:00開演(予定)
会場:埼玉県・秩父ミューズパーク

出演
5月13日(土)
【THEATRE STAGE】
GEORGE CLINTON & PARLIAMENT FUNKADELIC / DOMi & JD BECK
AI, bird, 家入レオ with SOIL&"PIMP"SESSIONS / Answer to Remember with HIMI, Jua
【GREEN STAGE】
ALI / 海野雅威 with Special Guest 藤原さくら / 4 Aces with kiki vivi lily / OPENING ACT : MoMo
【DJ TENT】
荒田洸(WONK) / SHACHO(SOIL&"PIMP"SESSIONS) / 柳樂光隆(Jazz The New Chapter) /
Chloé Juliette

5月14日(日)
【THEATRE STAGE】
DINNER PARTY FEATURING TERRACE MARTIN, ROBERT GLASPER, KAMASI WASHINGTON / SKY-HI & BMSG POSSE(ShowMinorSavage - Aile The Shota, MANATO&SOTA from BE:FIRST / REIKO) with SOIL&"PIMP"SESSIONS / Blue Lab Beats featuring 黒田卓也, 西口明宏 with 鈴木真海子(Chelmico) , ARIWA(ASOUND) / Penthouse with 馬場智章, モノンクル
【GREEN STAGE】
Kroi / モノンクル / 馬場智章 / OPENING ACT : soraya
【DJ TENT】
荒田洸(WONK) / SHACHO(SOIL&"PIMP"SESSIONS) / 柳樂光隆(Jazz The New Chapter) / Chloé Juliette
… and more to be announced

公式サイト:https://lovesupremefestival.jp

 
 
 
 

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