石若駿の足跡を辿る、日本のジャズと音楽シーンの人物相関図

 

Photo by Tamami Yanase

ポップス/メジャーシーンでの活躍


―石若さんはポップスやロックにも多く携わっていますが、最初の仕事は?

石若:2012年に「東京ザヴィヌルバッハ 人力SPECIAL」というライブがあって、僕と織原良次さんがリズム隊で参加したんです。そこで菊地成孔‎さんと知り合って、菊地さんがプロデュースしていた「けもの」のレコーディングで、日本語ポップスのドラムを初めてやりました。モノンクルも菊地さんプロデュースの時に3曲くらい参加しましたね、それが大学を卒業する頃だったかな。

その頃はジャズと並行して歌の音楽にハマっていたんですよね。特にくるりが大好きで、そこから星野源さん、青葉市子さんなどをずっと聴いていました。それで自分でも、学生の頃から地道に『SONGBOOK』を作っていたんです。(『SONGBOOK』シリーズでメインボーカルを務める)角銅真実さんは藝大の打楽器科の先輩で、僕が1年生の時の4年生。歌の表現もやっていて、それがすごくかっこよかったからお願いすることにしました。


2012年に開催された「東京ザヴィヌルバッハ 人力SPECIAL」のライブ映像。メンバーは​​坪口昌恭(key, effect, laptop)、類家心平(tp,effect)、宮嶋洋輔(g)、織原良次(b)、石若。


石若初の日本語ポップス参加作、けもの『Le Kemono Intoxique』(2013年)

―歌ものといえば、小西遼さん、小田朋美さん、井上銘さんなどと結成したCRCK/LCKSが、最初のEPを出したのは『SONGBOOK』の1枚目と同じ2016年でした。

石若:その辺がターニングポイントですよね。CRCK/LCKSやWONKも出演したMikiki忘年会で、吉田ヨウヘイgroupと対バンして西田修大と会ったのもその年で。西田とはその前に岡田拓郎くんのソロ作『ノスタルジア』のレコーディングで一緒になって、そのすぐ後にMikiki忘年会で仲良くなって。岡田くんとの出会いもデカいですね。数年前には優河さんのバンドで、神谷洵平さんが参加できないライブの時に誘ってもらったりしました。


石若、角銅真実、西田修大によるSONGBOOK TRIOのセッション映像(2020年)


CRCK/LCKSのライブ映像(2021年)。結成当初は角田隆太(モノンクル)がベースを担当したが2017年に脱退、後任は越智俊介。


岡田拓郎「A Love Supreme」(2022年)、石若とサム・ゲンデルが参加

―いわゆるバンドのコミュニティみたいなところと接点ができた。

石若:そういうコミュニティに憧れがあったんです。ジャズはソリストの集まり的なところがあるじゃないですか。だから、バンドのシーンは羨ましいなって思っていました。ないものねだりなんですけど。対バンをして急激に仲良くなるっていう経験もそこから増えて、中村佳穂とも最初はCRCK/LCKSの対バンで出会ったんですよね。名古屋のTokuzoで(2017年)。

あと、君島大空が現れたころって、SoundCloudやYouTubeに音源をアップしてる宅録の人たちが面白かったんです。北園みなみ、浦上想起とか。東京塩麹のパーカッションで、『SONGBOOK』シリーズのアートワークを手がけてもらっている高良真剣(たからまはや) が、この界隈のことにすごく詳しくて。『SONGBOOK』用の撮影で彼のところに行くと「最近こんな面白いのがいるよ」って教えてくれて、その中に君島がいました。それで、『SONGBOOK』のライブを君島くんとツーマンでやろうと誘って、すぐに仲良くなったという。同時期に北園みなみのアルバムにも参加したり、少し後に長谷川白紙くんとかにも呼ばれたり。



〈上〉石若がゲスト参加した、中村佳穂「LINDY」のライブ映像(2019年)。ギターは西田修大〈下〉中村佳穂がゲスト参加した、Answer to Remember「LIFE FOR KISS」


君島大空合奏形態のライブ映像(2020年)、メンバーは君島、西田修大、新井和輝、石若、田口花(Chorus)


北園みなみ「ひさんなクリスマス」、石若が参加(2015年)


長谷川白紙「蕊のパーティ」(2019年)、石若が参加

―最近はメジャーでの活躍も目立ちますが、歌ものの仕事が増え出したきっかけは?

石若:やっぱり、くるりじゃないですか。歌の音楽でいうとマヤ・ハッチや、MISIAのコーラスのHanah Springさんみたいにネオソウルな音楽は大学生の頃からやっていたけど、くるりで叩いているっていうことで世に知れ渡ったんじゃないかな。最初にレコーディングに呼んでいただいたのは2017年でした。

―くるりでの経験は大きかった?

石若:デカいと思いますね。「8ビートとは何ぞや?」みたいな(笑)。それまではジャズのアプローチというか、クリス・デイヴやエリック・ハーランドが8ビートをやる感じで叩いていたんですけど、くるりと演奏することで「ドラマーとして音楽の向かう先への役割を全うする」ということに関してすごく勉強になったんですよね。



〈上〉くるりの初レコーディング参加となった「ソングライン」(2018年)〈下〉石若が参加した、くるりのライブ映像(2022年)

―くるりの後、ポップスの仕事が一気に増えたと思います。その辺りはどうですか?

石若:くるりと一緒にやった直後くらいに、星野源さんから「一回スタジオに来て既存の曲を叩いてほしい」って連絡があったんです。「ブラシで、速いスイングの曲なんですけどやってくれませんか」って。そのときに初めて源さんと話して、リアルタイムで聴きまくってたから嬉しかったですね。それから数年経って、一昨年「不思議」で共演させてもらいました。

あとは、millennium paradeでさらに外へと広がった気がしますね。米津玄師に関わるようになったのも、大希と一緒にやっているからっていうのがたぶんあったと思いますし。




米津玄師「感電」(2020年)には石若、坂東祐大、MELRAWが参加。石若は宮川純と共に、2022年の楽曲「KICK BACK」にも参加している。

―その一方で、マーティ・ホロベック、細井徳太郎さん、松丸契さんと2018年に結成したSMTKではアンダーグラウンドな活動を展開していますが、松丸さんが日本に来るタイミングで真っ先に声をかけたのが石若さんでした。

石若:「この先、日本で活動していく予定です」って松丸のツイートに動画が貼ってあって(2018年)。ドラムとベースとサックスのトリオでオーネット・コールマンみたいなことをやっているのを観て「うわ、何だこの人……凄いな」と思って、DMしたのがきっかけです。実際に初めて会ったのは日野(皓正)さんのライブで、そのとき一緒に「All the Things You Are」(ジャズスタンダード)をやって。その後、新宿PIT INNで自分の3デイズ企画をやるときに誘って、という感じです。

松丸契の登場は、僕にとってすごく大きいものでした。ジャズという音楽をやる身として、社会的なメッセージを当たり前のように持っていて、自分の考え方もしっかりある。彼は日本ではなくパプアニューギニアで育った背景も含めて、僕らには想像できないことに気づかせてくれる存在です。世界中のジャズミュージシャンの中には、いろんなことを考えて活動している人がいるけど、日本でそんな同世代にはあまり会ったことがなかった。最初のきっかけが松丸ですね。(SMTKのメンバーでもある)マーティ・ホロベックもそういったことに気づかせてくれる存在です。



松丸契『The Moon, Its Recollections Abstracted』(2022年)、Boys(石井彰、金澤英明、石若)が全面参加


石若、松丸契が参加したSADFRANK「offshore」のライブ映像(2023年)

 
 
 
 

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