サンダーキャット異次元のステージ 「世界を肌で感じられる」来日公演が帰ってきた

サンダーキャット(Photo by Tadamasa Iguchi)

 
サンダーキャットの東名阪ジャパンツアーが、さる5月16日〜18日にかけて開催された。ジャズ評論家の柳樂光隆は、彼のライブにどんな意義を見出したのか。恵比寿ガーデンホールで開催された東京公演1stセットの模様をレポート。

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「LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL」でヘッドライナーを務めたロバート・グラスパーは、ドラムのジャスティン・タイソンとベースのデヴィッド・ギンヤードのコンビネーションがすさまじく、特にジャスティン・タイソンの進化には誰もが驚いた。ビルボード東京にはコリー・ヘンリー・トリオが出演。超絶ファンク・グルーヴのなかで、プリンスにも認められた名手タロン・ロケットのドラムとコリーのインタープレイが炸裂した。その数日後、ホセ・ジェイムズはNYで注目されるカイル・マイルス&ジャリス・ヨークリーの2人の新鋭を日本に紹介しただけでなく、BIGYUKIや黒田卓也を迎えて、過去最上級のライブを見せてくれた。海外アーティストのライブは長らく途絶えていたが、この5月はアメリカの実力者たちが一気に来日して、それぞれのヴェニューを盛り上げた。

そんな怒涛の来日ラッシュのなかで、ひときわ大きな盛り上がりを見せたのがサンダーキャットだ。誰よりも来日を待望していたアーティストのひとりで、来日後もしばらく日本に滞在し、上坂すみれと会ったり、都内各所で目撃されたりと話題を振りまき続けている。とはいえ、久々に見せてくれたライブの衝撃にはどんな話題も及ばない。

本来であれば2020年に『It Is What It Is』をリリースしたあと、すぐに来日公演を行う予定だったが、2年間の空白期間を経てようやくジャパンツアーが実現した。サンダーキャット側は、あくまで「中止」ではなく「延期」であることを強調。そして今回のライブは、彼の右腕である鍵盤奏者デニス・ハムに加えて、まさかのルイス・コールが帯同するというおまけつきだった。


Photo by Tadamasa Iguchi

セットリストについては、キャッチーかつコンパクトにまとまっていた『It Is What It Is』収録曲が中心ではあったが、サンダーキャットのライブは演奏曲の一部をモチーフに、ゴリゴリの即興演奏を行うのが恒例。曲が始まり、アルバムで聴いていたヴァースやコーラスの印象的なフレーズを奏でたかと思えば、それらを素材にして即興へとなだれ込んでいく。

そこは過去に日本で見せてきたステージと変わらないが、今回はフレキシブルに暴れまくる(ジャズ出自の)ジャスティン・ブラウンではなく、ルイス・コールがドラマーを務めたのが大きな変化。それによってリズムはタイトかつミニマルになり、ファンク度も高め。つまり抽象性を多少抑えるかわりに、よりダンサブルなサウンドになっていたのは、久々のスタンディング公演にうってつけの変化だったかもしれない。


Photo by Tadamasa Iguchi

そして、固めでソリッドなリズムのうえで、サンダーキャットはベースというよりはギターもしくはキーボードのようなフレーズを自由自在に引き倒す。シンコペーションしながらもどこか前のめりでロック的な疾走感をもつサンダーキャットと、ルイス・コールの高速かつ変則的なファンクを聴いていると、かつてサンダーキャットがスーサイダル・テンデンシーズの一員だったことまで頭をよぎる。

そんな二人の隣で、ひそかに超絶パフォーマンスを行っていたのが鍵盤のデニス・ハム。ベース奏者がひたすらソロをとるトリオなので、ベースラインはほぼ鍵盤が担うことになる。そういう意味で、サンダーキャットのバンドは、オルガン・トリオ的なバランスで成り立っているとも言えそうだ。


Photo by Tadamasa Iguchi

ルイス・コールのマシーナリーな高速リズムに合わせて、デニス・ハムは左手のキーボード・ベースで的確にグルーヴを生み出す。そして、ひたすらにフレーズを紡ぎまくる主役のベース奏者に合わせて、時にコードを重ねたり、もうひとつの旋律を並べたりしていた。グルーヴを支えながら、ハーモニーを生み出し、楽曲の情感も膨らませる。二人の化け物の演奏を支え、彩り、その合間に自身の主張もさりげなく込める。2本の手でリズムもメロディもハーモニーも担当する様は、フュージョン寄りかつプログレ風味のBIGYUKIとも形容したくなる驚異的な演奏だった。

 
 
 
 

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