「八神純子特集」、東日本大震災を経て誓った“第二の音楽人生”を語る



八神:この曲は東北の震災以降いろいろな出会いから生まれた1曲なんです。東北・女川のある女性が震災でご両親が津波で流されてお亡くなりになったんですけれども、どうしても伝えたかった一言があったのに伝えられなかった、ということを涙ながらに私に語ってくださったことがあって。

田家:実話のエピソードがあって生まれた曲なんだ。

八神:旅館を経営されていて、自分が継ぐという一言をいつでも言えると思っていて、言えないままになってしまった。そういう一言ってみんないろいろな意味で持っているじゃないですか。私は彼女との出会いで、インスピレーションとかひらめきを大事にするようになったんです。言葉って頭の中をよぎるときとか、心の中にポッと浮かんだときが言うときなんだと思うんですね。曲もパッと思い浮かんだときに書いてしまった方が全然いい曲ができるんですけども、言葉もその通りで浮かんだときに伝えるもので。だから浮かぶんだってハッとしたんです。それがこの作品に盛り込まれています。

田家:さっきの「約束」もそうなんですけど、この「1年と10秒の交換」もそれまで日本で活動していたときに歌っていたラブソングとはかなり違いますよね。

八神:そうですね。死を意識して歌にしています。これは「パープル・タウン」を歌っている私には似合わないって、最初大反対をされました。

田家:八神純子がこんな歌を歌っちゃいけないよみたいな。

八神:たぶんそう感じているファンの方もいるかもしれないです。ただ、私は生を歌うために、死を歌えないとダメだと思うんですね。そういうテーマで歌を歌い始めたのもちょうどこの頃からですね。私でしか歌えないもの、私でしか書けないものというところに自分の重きを置くようになったのも、こういう作品がきっかけです。

田家:大人のラブソングってなんだって言われたときに、そういうことがちゃんと織り込まれているかどうか、それは1つの答えだと思いますね。『Here I am』と『There you are』。『Here I am』は私はここにいます。『There you are』はあなたはそこにいますみたいな、やっぱり繋がりがあるわけでしょ?

八神:ここだけの裏話で打ち明けてしまうと、「Here We Go!」はシングルで出た曲なんですけども、『Here I am』、『There you are』、『Here We Go!』という三部作で考えていて、次のアルバムのタイトルにしようと思い制作していたらコロナがスタートしたんです。

田家:あーそういうことか。

八神:それで私のアルバムへの考え方とか、作品がどんどん変わっていくんです。ですから、『Here I am』、『There you are』、『Here We Go!』じゃなくなったんですね。三部作で考えていたんですけども、やはりひらめきを大事にしようと思ったのでアルバムタイトルにはならず、これは誰も予測がつかなかった出来事。でも人生ってそういうことの連続ですよね。

Rolling Stone Japan 編集部

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