「八神純子特集」、東日本大震災を経て誓った“第二の音楽人生”を語る



田家:この曲を選ばれているのは?

八神:この曲を歌いながら、生涯現役で歌っていくことが私の幸せなんだろうなという気持ちになっていったんです。この曲はたぶん私がいくつになっても深みを増していく曲だと思っていて。女性シンガーとしてラブソングが書ける、歌える、ラブソングが似合うアーティストでいるべきだなと感じているので、ずっと大事に歌っていこうと思っています。

田家:日本での活動の最初はカバーアルバムで始められたわけでしょ?

八神:ちょっと意外だったと思うんですよね。「八神純子がなんでカバーアルバムでカムバックなんだよ」って言われたこともありますけど、私のことをとてもよくしてくれたソニーの担当の方が入院されたんです。その方がずっと『コッキー・ポップ』というアルバムを作りたいって思い描いてらして、元気になってもらおうと思って「アルバム作りましょう」って言ったんですよ。そしたらすぐ退院してきて(笑)。

田家:ソニーの加納さんですよね(笑)。

八神:そうです(笑)。何十年振りに出すアルバムの1枚目はこれにしました! って気持ちは全然なくて。「加納さん元気になって、これを作るから」というのが真実だったんです。

田家:なるほどね。でも、被災地に行って、目の前で待ってくれている人に対して歌うように、誰かに対して歌うということでは同じような流れになるかもしれないですね。

八神:例えば中島みゆきさんの「時代」をカバーしたんですけども、被災地で被災されたご老人の男性に「どういう歌を聴きたいですか?」って言ったら「中島みゆきの「時代」聴きたいなあ」っておっしゃったんです。「私が歌うのでいい?」って言ったら「いいよ」って言ってくれたので、そこで歌ったらとても喜んでくださって、この曲私にも似合うかもしれないと思って入っているんです。この後に作った私のオリジナルアルバムとは全く違ったアプローチで。

田家:そういうカバーアルバム『VBREATH(ブレス)~My Favorite Cocky Pop~』があったから、『Here I am~Head to Toe~』に本気で取り組めた、違う気持ちで新しく取りかかれたということもあるんでしょうね。

八神:はい。みんなちゃんと理由があって繋がっている作品です。

田家:後半は『Here I am~Head to Toe~』の次に出た2016年1月のアルバム『There you are』のご紹介です。その後、コンサートをいろいろな形でおやりになられましたもんね。2013年に『Here I am』のツアーがあったり、2014年、2015年はコンサートに専念されている。2014年は「Here I am 2014」というツアー、「奥の細道コンサートツアー2014」、2015年もコンサートツアー「あなたの街へ」、「2015 Here I am」ツアーが2回あったりして、その間にビルボードライブ。伝説の「The Night Flight」。後藤次利さん、松原正樹さん、佐藤準さん、村上ポンタ秀一さん。これはライブアルバムにもなってますし、シリーズが出ていて、ライブアルバムが3枚。ライブ自体も2019年まで6回行われた。

八神:今年10回目で「The Night Flight 10th」なんです。

田家:もう10thになるんだ!

八神:みんなが元気なうちに10回目を迎えたい気持ちがあって、年に2回やったときもあって。あとはコロナに入ってしまって1年できないんじゃまずいと思って、配信ライブもしたんですね。そしたら村上ポンタ秀一さんが急にお亡くなりになってしまって、10回目はポンタさんなしで。本当は一緒に迎えたかったんですけどね。

田家:所謂コンサートツアーは全国津々浦々に回るわけでしょ? それとはかなり違うライブというわけですもんね。

八神:毎年同じタイトルで、後藤次利さんが毎回私のヒット曲のアレンジを変えるなかなか難しいチャレンジだと思うんです。私はほぼ後藤次利バンドのボーカリストみたいな、そんな位置づけです。

田家:地方のコンサート会場を回るときには違うメンバーで、もっとフレキシブルに選んだりしているんですよね?

八神:はい。八神組という全員集まると6名。ヤガマツリになるとそこに弦が入ったり、管が入ったり。あとはトライアングルと言ってピアノとギター、そして私とういうのもありますし。80人近くのオーケストラコンサートもあったり、ピアノ一本だけというのもありますしね。

田家:それは被災地で歌ったことが土壌になったり、背景になったり、支えになったりもしていたんですね。どこででも歌えると。

八神:どこでも歌えなきゃいけないって思いましたし、どこででも同じ気持ちで歌わなきゃいけない、と。どこでも一生懸命歌える私なんだってことが東北で分かったんです。ある仮設住宅で歌ったときに、4名ぐらいの前で歌って、長年歌っていたのに、そこまで歌った中で最高だと思ったんです。何が違うんだろうと思って。

田家:何が違うんですか。

八神:分かってもらいたくて、伝えたくて。大きな声で歌うのではなくて、伝えるという歌.が歌えるようになったのもそういう場所だったと思います。私の言っている言葉の1つ1つを届けるにはどう歌ったらいいんだろうって、毎回ブレスをする度に、こうしたらいいのかな、ああしたらいいのかな、こうやって歌ったらいいのかなって頭の中をフルに回転させながら歌っていたと思うんですね。

田家:全く知らない人に向けてですもんね。

八神:アスファルトの上、地べたの上に座って聴いてくれているわけなんですよ。ですから、私も中途半端な気持ちで歌うわけにいかなくて。寒いし。そういう場所で歌わせていただいたので気がついたことがたくさんありました。

田家:そういう様々なライブ経験の中で生まれたのが2016年1月に出たアルバム『There you are』。アルバムの中から純子さんが選ばれた曲「1年と10秒の交換」。

Rolling Stone Japan 編集部

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