人間椅子が語る、欧州公演やコロナ禍を経て、シンプルな一体感で伝えたかったこと

クオリティが落ちない理由

―『新青年』の制作が終わってからの2年間は、今回のアルバムをつくるにあたってどういう時間だったと思いますか?

和嶋:人間椅子は3年に2枚ぐらいのペースでアルバムを出していてそのためにバンドは動いてるので、いつものアルバムをつくるっていうのがひとつありましたね。なので、コロナ禍になってもいつもどおりにアルバムをつくるわけですけど、ヨーロッパツアーのあと1年以上ライブ活動ができていなかったのでそれは歌詞に影響しました。ただ、この現状を「ツラい」とか「どうすればいいんだろう」って具体的に書くのではなく、我々の独特な表現で心情を表せればいいなと思って取り掛かりました。コロナは大きく影響してます。

―コロナはリリースペースには影響を与えていないですね。

和嶋:今年はなんとかツアーをやれることになりましたけど、もしかしたらできなかったかもしれなかったから、だとすればなおさらアルバムを出しておかないと。それしかやれる活動がないし、どんなに状況が苦しくてもアルバムを出してたと思いますよ。

―なるほど。

和嶋:あと、お客さん側にもいろんな職種の人がいて、今までどおりに働けている人もいるでしょうし、そうじゃない人もいっぱいいると思うんだよ。みんな苦しいと思うんだよ。そこに何かしらのメッセージを届けることは義務みたいなもの。励ましてあげたいとか、「我々、頑張ってますよ」でもいいから、それを伝えないと。

―作品資料に、「いたずらに批判的にならぬよう、特定の事象をあげつらわないよう、細心の注意を払うつもりです」とありましたが。

和嶋:今後、社会がどうなっていくのか分かる人はいないと思うんですよ。それをルサンチマン的感情で……社会的弱者が権力者をただ批判するみたいなことになるのはいかんなと思ったんですよ。政治に対する個人的意見はあくまでも個人的なものなので、そういうことはしないようにしようと思った。

―そういうメッセージを明確に伝えるバンドもいますよね。

和嶋:そういうバンドもいていいと思いますけど、自分たちはノンポリでいたいし、そういう立場で面白いこと、不思議なことをやりたい。自分たちのやりたいことがやれる社会であれば僕らは文句はない。そういうことを現時点での僕らなりの言葉で書ければなと。

―デビュー以降、22枚もの作品を定期的につくり続けているわけですが、どこから音楽的なアイデアが湧いてくるんですか? ほかのジャンルやバンドから今でも影響を受けたりするんですか?

和嶋:聴いているのは古い音楽ですね。

鈴木:でも、曲をつくるにあたって影響を受けるとしたら、自分は和嶋くんからですね。「すごいな、この展開」と思ったら、それに負けないようにカッコいい展開を自分もつくろうと思う。和嶋くんもそうだろうけど、「とにかく前作よりも上を」って毎回考えてつくるから落ちないんじゃないですか。

和嶋:俺ももちろん、鈴木くんが曲を持ってくると「こういう展開をさせたいな」って思いますよ。バンド内にコンポーザーが何人かいるといい意味で刺激し合うことになるから、それがいいように作用していると思う。あと、どう頑張っても100点を出せないんですよね。自分でもわかるんですよ、ここが足りなかったとか、ここはヘタクソだったなとか。

―そうなんですね。

和嶋:自分らがすげえと思う海外のアルバムを聴いて100点だと思った感じを自分たちのアルバムでも出したいっていう大きな目標があるからこそ、毎回アルバムをつくったあとは100点を出せたと思えない。それで「次はもっといいものを!」っていうことをずっと繰り返しているからクオリティが落ちないんだと思う。

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