泥ではなく「人糞」だった カオスと化した伝説の音楽フェスを回想

『Woodstock 99: Peace, Love, and Rage』のワンシーン

伝説的な音楽フェス「ウッドストック・フェスティバル」の30周年にあたる1999年に開催された「ウッドストック 1999」。同フェスのドキュメンタリー映画『Woodstock 99: Peace, Love, and Rage』がケーブルTV局HBOで公開された。

【動画を見る】泥と人糞にまみれたフェス

映像にもあるように、主催者は観客のために――大半が若い男性客だった――清潔な飲み水の入ったタンクを用意していたが、シャワーや衛生用の水が不足していたため、大勢の観客が即席バスタブとして飲料水タンクに駆け込むハメとなり、あっという間に水は飲めなくなった。

いら立ちを募らせた観客は、清潔な水を求めて飲料タンクの給水パイプを破壊。それがさらなる惨状を引き起こした。破裂したパイプからほとばしる水が、満杯になって放置されていた仮設トイレとまじりあい、泥と排泄物の有害な混合物を生みだし、フェス参加者はその中で嬉々としてふざけあった。

「若者たちは泥だと思ってその中で転げ回っていましたが、実は人糞だったんです」。騒動を見ていた目撃者の1人はドキュメンタリーの中でこう語っている。映像には仮設トイレエリアのすぐ近くで、泥にまみれる若者たちの姿が描かれている。

「興味深いことですが、泥はこれまでずっとウッドストックの伝説で重要な役割を果たしてきました」と、ギャレット・プライス監督はローリングストーン誌に語った。「ベセルでおこなわれた最初のウッドストックの、一面泥に覆われたイメージは伝説です。94年のウッドストックでも、ナイン・インチ・ネイルズやグリーン・デイが泥まみれになって脚光を浴びました」

『Woodstock 99: Peace, Love, and Rage』は、情報サイトThe Ringerのビル・シモンズがプロデュースするHBOのドキュメンタリーシリーズ『Music Box』の第1弾。ザ・ルーツの“ブラック・ソート”ことタリーク・トロッターやKORNのジョナサン・デイヴィス、モービー、ジュエル、オフスプリング、クリードのスコット・スタップといったミュージシャンなど、「ウッドストック 1999」の出演者や音楽ジャーナリストの他、最後には大騒動に発展したフェスを間近で体験した参加者のインタビューが盛りだくさんだ。

「意見が真っ二つに分かれるイベントですよ。一生に一度の体験をしたという参加者が大勢いる一方で、まったく違う見方をする人もいましたからね」とプライス監督。

「『ウッドストック 1999』は欠点だらけのフェスにもかかわらず、あのフェスならではのポジティブな点もあります。そのひとつが、音楽ファンにとっては完全に平等なイベントだったという点です。『ウッドストック 1999』にはVIPテントも、高額のスペシャルチケットも、いわゆるグランピング体験もありませんでした」とプライス監督はさらに続ける。「すべてのチケットが入場料だけ、それが音楽ファンにとっては真に大衆的な体験だった。僕の一番の願いは(ドキュメンタリー制作中に僕自身も体験したことですが)、オーディエンスに昔を懐かしんでもらいたい。それと、楽しみながら考えさせられるような映画を届けたい。現在の社会や文化のあり方について深く考え、折り合いをつけるような作品をね」

from Rolling Stone US

Translated by Akiko Kato

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