中島みゆきのセレクションアルバムが持つ意味、瀬尾一三と探る

with / 中島みゆき

田家:続いて7曲目「with」です。オリジナルは1990年発売で、アルバムは『夜を往け』に収録されておりました。『夜を往け』には「新曾根崎心中」という曲もあって、少しづつ新しい試みもしていた時代だったと思いますが。

瀬尾:「新曾根崎心中」もあの中に入れるつもりはなかったんですけど、全体的にもう少し色っぽい曲もあっていいよねと僕が言ったら、こういう曲あるよって「新曾根崎心中」を渡されて。じゃあこれを入れさせていただきます、と。

田家:この「with」には、寂しさと虚しさと疑いという言葉が出てきますが、これはみゆきさんにも限らずでしょうけど、物を作っている人というのはこういうことに直面したり葛藤している人たちでもあるわけですよね。

瀬尾:究極的な言い方をしてしまえば、自分以外敵ですもんね。敵といっても色々な種類がいるわけで。自分が作品を作って外に聴かせるまでの間にどれだけ自問自答するか、その間に色々な人の知恵などを吸収しながらやっていくのですけども。作業としては孤独な作業ですよね。誰とも相談ができないものなので。曲として書いてしまって僕みたいな人に渡せば相談はできるようになりますが、0から作り上げるということに関しては誰とも相談できないので、本当に孤独だと思います。

田家:そのことを分かっていることがアーティストに寄り添っているということになるのかもしれませんね。

瀬尾:そういう存在にはなりたいですけど、なかなか寄り添わせてはくれません。跳ね除けられます(笑)。

田家:でも、これだけ長く一緒にやられているのは、寄り添ってくださいと言われているようなものかもしれませんね。

瀬尾:半径何メートル以内に入るなという感じですけどね(笑)。

田家:入らないほうがいいこともあるのかもしれません。この曲の「ひとりきり泣けてもひとりきり笑うことはできない」という部分が改めて届けばいいなと思います。人生という旅、寒さを分かち合う相手が見つかるかどうか。withというのは寄り添いの言葉ですよね。

瀬尾:コロナ禍になって、withの後につく人を見つけることが一番必要なことかもしれませんし、そういうチャンスをコロナがくれたのかもしれないので。なので、withの後につく人をちゃんと確認しましょうね。

田家:そういう年になることを願って今週は締めくくりということになります。今月は毎週、瀬尾一三さんをゲストにお送りしております。ありがとうございました。

Rolling Stone Japan 編集部

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