中島みゆきのセレクションアルバムが持つ意味、瀬尾一三と探る

あした / 中島みゆき

田家:今流れていますのは、5曲目「あした」です。1989年のシングルで、アルバムは1990年の『夜を往け』。今回はリミックス版が収録されていました。この曲は、瀬尾さんが関わるようになった1988年の「グッバイガール」の次の作品ですが、この曲で思い出されることはありますか?

瀬尾:僕と彼女が一番最初に一緒にやった仕事はシングルの『涙 -Made in tears-』なんですけど、それはお試し期間という感じで。その後に『グッバイガール』の制作に入っていって、「あした」のシングルはもうレコーディングしていたんですよ。なので、初めて一緒にやった一連の仕事という感覚でしたね。

田家:「あした」は、先程の「悪女」のように主人公が芝居をしているような曲の作り方ではなくて、まっすぐでいじらしい歌ですよね。「見失ってしまわないでね」という言い回しが、とても丁寧に思えました。

瀬尾:見失わないでねだと、その時だけで時間が切れてしまっている感じがするんですけど、見失ってしまわないでねという言い方だと、ずっと見失ったまま続いているという感じがあって。優しそうに言いながら、言葉の選び方がすごいですよね。

田家:この曲では、失くしているのは"私たち"なんですよね。自分だけでなく、相手だけでもない。二人とも傷ついているというのがリアルな感じがしますね。

瀬尾:そうですね。彼女の歌は、男が悪くて女が辛いというのが多かったんですけど、男も辛いんだよという話をしたことがあって。そしたら、じゃあ二人ともということになって(笑)。

田家:ただの失恋ソングではないということを改めてお聴きいただけたらと思います。愛を追い越していく時代だからこそ愛だけを残せ、という流れでもあるのかもしれません。あまりいい言葉ではないかもしれませんが、「老い」というテーマもここにあるなと最近思ったりして。

瀬尾:そこまで先読みはしていないと思いますよ、この時まだ彼女は30代ですもん。

田家:30代の時に書いた曲が70代になろうとしている人の心を打つわけですね。

Rolling Stone Japan 編集部

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