中島みゆきのセレクションアルバムが持つ意味、瀬尾一三と探る

田家:3週目になりました。今回の『ここにいるよ』はエール盤と寄り添い盤に分かれておりまして、今週と来週は寄り添い盤の全曲の話を伺っていこうと思うのですが、この寄り添うという言葉の距離感。瀬尾さんはミュージシャンに寄り添われている方だと思いますが、ご自分が日常の中で音楽に寄り添ったり、寄り添われたりということはあるものですか?

瀬尾:リスナーの皆さんからよく音楽に救われたという話は聞きますが、僕にとってはビジネスなんです。リスナーさんのように精神的に救われるような機会があまりないというか。この仕事に就く前は、色々な曲を聴いて気持ちがいいと思いましたが、この仕事を始めてからは寄り添ったり、寄り添われたりということはないですね。ひいて言えば、全部寄り添ってますよ。

田家:なるほど。それでは寄り添い盤の1曲目から聴いていきましょう。「アザミ嬢のララバイ」。1975年9月になったデビュー曲です。この曲がセレクションアルバムに収録されて、改めて思われることはどういうことでしょう。

瀬尾:皆さんご存知のように、僕はこの頃中島さんと接点がなくて。もちろんこの曲を知っていましたけど、僕は彼女より5、6年くらい早くこの業界に入っているので、新人の歌手が出てきたなあというくらいの感じでしたね。

田家:でもこういう風に色々な曲と一緒に収録されると、この曲で始まったんだなということや、やっぱりそうだったのかと思うこともありますよね。

瀬尾:そうですね。初期からファンの方にとっては外せないデビュー曲なので、この曲は欠かせなかったですね。

田家:去年のラストツアーの中でもこの曲が披露されていました。それはやはりラストツアーだからという。

瀬尾:そうですね。ツアーとして最後に全国を回るので、デビューからの曲も入れたいということで。彼女からは口酸っぱく「原曲と同じイントロ、同じアレンジにして」と、言われました。音質も楽器の音も全部似せて、変えてはダメです、と(笑)。なので丸々コピーしました。

田家:でも楽器の音も機材も変わっているでしょう?

瀬尾:そうですね。でもキーボードやシンセサイザーの人にも、この原曲の音色を似させるようにして。フレーズも全く変えないで、と言われたので頑張りました。

田家:こうやって寄り添い盤の1曲目に入っていると、中島さんは最初から“寄り添い姫”だったんじゃないかと思いました。

瀬尾:中島さんは色々な面を持っているので、優しく側にいてくれるような歌も書くと思えば、どん底に突き落とすような曲も書く両極端な人なんです(笑)。でも突き落とすような曲でも、芯の部分はとても温かい人なんです。最終的に彼女は救いの手を伸ばしている人で、この曲は本当に菩薩のような中島みゆきさんですね。

田家:ずっと寄り添ってくれる曲が収録されています。お聴きいただいたのは、昨年12月に発売になったセレクションアルバム『ここにいるよ』のDisc2寄り添い盤の1曲目「アザミ嬢のララバイ」でした。

Rolling Stone Japan 編集部

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