NY発、人工呼吸器不足の深層「豚インフルエンザの誤った教訓」

資金不足が準備不足へ

ブルームバーグ市長時代の対策プランのもうひとつの要――市民へのマスクの大量配布――も、専門家が先の指示を撤回し、ニューヨークのような感染者の多い地域では顔を覆うようしきりに勧めているというのに、実現していない。代わりに、デブラシオ市長は先週、スカーフやバンダナといった「家にあるどんなものでも」使用するよう市民に呼びかけた。市の病院では未だに医療従事者を守るマスクだけでも300万枚以上不足している、と市長は述べた。

別の元保健当局者も独立系調査報道機関ProPublicaとのインタビューで、他にも懸念すべき脅威がまだまだあるが、あらゆる可能性に万全の備えをするだけの予算はなかった、と述べた。

「後から振り返って、パンデミックにもっとお金を使うべきだった、と言うのは簡単です。ですが、その先何が起きるかなど当時はわかりませんし、脅威は他にもありました」と、ワイズフュース博士も言った。彼はフリーデン氏の下で2012年まで市の疾病管理部門の部長を務めていた。「当時の仕事には満足していますが、今の状況を見れば明らかに不十分でした」

2000年代中期の鳥インフルエンザ騒動とパンデミック対策プランの後、最初に試練が訪れたのは2009年。H1N1インフルエンザ、いわゆる豚インフルエンザが発生した時だ。

大規模な感染になるのではないかと恐れられた。一部の学校は閉鎖され、物資不足についての議論も活発に行われた。だが流行はコロナウイルスよりずっと低い死亡率で収束し、市民の関心はニューヨーク経済を壊滅的な状態に至らしめた不況の影響へと戻っていった。

「豚インフルエンザで、我々は誤った教訓を得てしまったのでしょうね」 ニューヨーク市保健局の緊急事態管理室の元メディカルディレクター、ダグラス・ボール博士はProPublicaに語った。彼は第二次世界大戦中のロンドン大空襲に例えてこう言った。「近くに落ちた爆弾を免れた人々は、自分たちが安全だと考えました。本当なら『ああ、なんて幸運だったんだ』と考えるべきだったんです」

市保健局の予算削減は何年にもわたり、専門家たちが大規模なパンデミックを恐れ続ける中、市の準備能力は制限されていった。

2014年、市の公立病院の緊急事態管理を統括していたニコラス・カリューソ氏はパンデミック講習会で参加者に対し、病院の準備体制、とりわけ緊急設備の備蓄能力は予算削減の影響をもろに受けていると語った。

Translated by Akiko Kato

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