NY発、人工呼吸器不足の深層「豚インフルエンザの誤った教訓」

変わらない資金不足、孤立の恐れ

パンデミック対策は、2014年に就任したデブラシオ市長の下でも継続された。

その年、連邦緊急事態管理庁のニューヨーク・ニュージャージー支部とウォール街の業界団体の共催でオンラインのパンデミック研修会が開催され、数百人の企業重役と政府関係者が参加した。

当時、公立病院の緊急事態管理室の室長補佐をしていたカリューソ氏もプレゼンテーションを行い、緊急事態下での物資調達の難しさについて警告した。

「サプライチェーンの崩壊は深刻な問題です。我々緊急事態管理室としては非常に残念ですが、今はジャストインタイム生産システムの時代です」とカリューソ氏は当時述べ、病院が経費削減のために医療機器の在庫を制限している現状に触れた。「なのでサプライチェーンのトップの方々と何度か議論を戦わせてきました。とはいえ、私もビジネスや現状については十分理解しています」

現在も公立病院機構に携わっているカリューソ氏にコメント取材を依頼したが、返答はまだ得られていない。

しかし市が専門家の警告を行動に移そうにも、連邦政府からの助成金の大幅削減が行く手を阻む。2012年に開催された感染症学会で、当時市の疾病管理センター副局長だったジェイ・ヴァルマ博士は「感染症プログラム」が「緊縮政策時代の打撃を受けている」と警告した。

それから3年後、緊急事態準備対策室の副室長を務めていたマリサ・ラファエル氏が、議会の公聴会で同じ警告を繰り返した。「我々の進歩を脅かす最も深刻な脅威は、連邦準備助成金の減額です」。2005年以来、疾病予防管理センター(CDC)の主要プログラムは助成金を2億5000万ドル以上も減らされた。ラファエル氏によれば、CDCは公衆衛生対策チームのスタッフ数を半分以上も削減せざるを得なかったという。

サプライチェーンの問題は2018年に再び浮上した。1918年のスペイン風邪大流行から100年目の節目に、ジョンズ・ホプキンズ大学で行われたパンデミック講習に市の公立病院機構が参加したときだった。カリューソ氏と同僚らは、講習内容をまとめた論文を学術雑誌に提出した。

一言で言うとこうだ:パンデミックが起きたら、ニューヨークは自力で切り抜けなくてはならないだろう。

「州も連邦政府も配布準備が整った医療品は備蓄しているが、パンデミックが発生すれば同じように支援が必要な地域同士で競合が起き、物資の割り当てが困難になるため、結局支給される量や早さは制限されるだろう」と記されている。

彼らが提案した解決法は市の備蓄増強ではなかった。むしろ、テクノロジーによる解決を訴え、「政府が一目で見てわかるようにデータを自動的に表示する」仕組みを作るよう要求した。

公立病院機構にコメント取材を依頼したが、未だ返答はない。

Translated by Akiko Kato

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