URC50周年3枚組ベストを5週に渡り全曲紹介、あの頃青春だった人たちの遺産を聴く

いかに女性シンガー・ソングライターとして早かったか、金延幸子

・金延幸子「み空」



この金延幸子さんという名前はご存知ないという方のほうが多いでしょうね。実は私もお会いしたことがないんです。72年にアルバムが出てすぐアメリカに行ってしまって、日本から離れた。日本のシーンからいなくなってしまったんですね。結婚して向こうに行ってしまったんですが、そういう意味では70年代でいろいろ語られていく中にこの人のことは抜けていることが多かった。そこに出てくることもなかったという女性ですね。72年9月に出た1stアルバムのタイトル曲です。URCは、これもお聴きいただくとわかるんですけど、男ばかりなんですよ(笑)。これは当時自分たちの歌をギターを弾いて歌おうという思考を持っている、よく言えばアグレッシブというか。悪く言えば生意気なはみ出した人たちはやっぱり男が多かったということなんだと思います。女性はそこまで思い切ることもできなかったでしょうし、家庭とか家とか家族とか、縛られていないにしても、それを気にして生きていかざるを得なかった。男のほうが跳ね返りが多かった。いや俺は勝手にやるんだといって、こういう歌を歌っていたりしたというのが女性の少なかった一つの要因でしょうね。彼女は69年に「愚」というグループでデビューしたんですね。このグループが瀬尾一三さん、中川イサトさん、松田幸一さんというな名うての人たち、サイケデリックなフォークバンドだったんです。そういうところで揉まれながらやっていた。金延さんは去年コンサートをやりまして、瀬尾さんはちゃんとお会いしに行ってましたね。そういう金延さんのアルバムも今回の再発の中に入っております。今日最後の曲はDISC1の10曲目。もう一曲金延さんが選ばれております。「時にまかせて」。

・金延幸子「時にまかせて」



この曲は1971年にビクターからシングルも出ているんですね。シングルのプロデュースが大滝詠一さんです。今お聴きいただいているのは、72年9月に出た1stアルバムで、アルバムのほうは細野晴臣さんがこの曲をプロデュースしているんですね。大滝さんと細野さんがシングルとアルバムそれぞれでプロデュースしている女性アーティストはたぶんこの人だけじゃないかな。それだけ当時、女性アーティストがまだいなかったということもあるでしょうし、女性の中で彼女が光っていたという現れでもありますね。ちなみに71年7月というのはまだユーミンはデビューしていませんからね。五輪真弓もいません。そうやって考えると、いかに女性シンガー・ソングライターとして早かったかが年表的にお分かりいただけるんじゃないかと思います。早かったということと、ポール・ウィリアムズというアメリカの音楽評論家と結婚して向こうに行ってしまった。いなくなってしまった。時代のいたずらというんですかね。「時にまかせて」というのが今の曲のタイトルでしたが、時のいたずらというんでしょうか。もしあのときこうなっていたら、この人はこうなんじゃないかとか、いろんな仮説が成り立つんですが、それは時が経ったから言えることですね。

Rolling Stone Japan 編集部

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