デビュー20周年のm-floとダンス・ミュージックの20年を振り返る

☆Taku、VERBAL、LISAの3人の等身大を収めた最新シングル

ーEDMブームも一段落しましたけど、ポップフィールドの方でメジャー・レイザーだったりカイゴだったり、リスニング重視のエレクトロミュージックがより注目されるようになって。

☆Taku:ワーイ!というお祭りしている曲の反動が来てますよね。もうちょっと空間が空いてるサウンドとか。

ーm-floの新作も聴かせてもらって、どちらかと言うとそういうリラックスした方向に。

☆Taku:うん。でも音圧は出しているつもりです。特に「No Question」は今と昔との結婚みたいな。

ーそうですね。ちょっとトラップっぽいところがあったりフューチャーベースな部分もあったり。一曲の中で場面が移り変わっていく。

☆Taku:今時こんな高速ラップしないよっていうか(笑)、VERBALは普通にやってるけどBPM150であれだけの高速ラップって難しいと思う。あとLISAの“それさえ許さない世の中なら/全て投げ出して/自由になるまで”って歌詞がすごく好きで、社会の窮屈な部分に対して「違うよ、オルタナティヴもあるよ」っていうメッセージが入っていたり。VERBALのリリックでも“命かけてふざけてますけど/その点について誰か何か気になる人がいたら/是非そのまま黙り続けて頂けますか?/それだと幸いです”って、低姿勢にパンクなことを言ってるのもいい(笑)。

VERBAL:英語にはできない日本語ラップなんですよね。英語だとアグレッシヴになりがちなんだけど、日本語だと“幸いです”っていう言い方があったり。“幸いです”は美しい言葉だからよく使うんですけど、ヘンなことを言って“そうしていただけると幸いです”と言うとミスマッチ具合が面白くなる(笑)。

LISA:でも今回、本当に良かったよ。

VERBAL:怒られないで済みました(笑)。

LISA:“ヘイターの声聞こえないです”って、最高だねアレ!

VERBAL:みんなと話していたのを覚えてるか分からないけど、フリースタイルバトルってお互いに罵声を投げてディスり合ったりするじゃないですか。でもお互いを褒め合うフリースタイルバトルがあったらウケるよね、それだったら俺もフリースタイルできるかもって冗談で言ってて。褒めてる風で褒めてない感じってどうなんだろう?って頭をよぎって、このラップを書いたと思うんですけど。

LISA:最高! レコーディングでは、立ち上がってファンタスティック!って感じでしたもん。

ー本当にいい感じに仕上がっていると思いました。今はどっちの方面を見てますか?

☆Taku:お互いそれぞれあると思うんですよ。いろんな経験をしてるしたくさん曲も作ってるけど、僕の場合は素直になる! カッコいいと思ったら、そういうことをやりたいなって素直に思う。手グセがあるんだったら手グセを出す。先輩だろうが後輩だろうがカッコいいサウンドを作っていたら自分もそれを取り入れちゃう。昔はそれがやりやすかったんですよ。だってみんな違うシンセを使ってたから同じ音にならない。

ーそうですよね、アナログだし。

☆Taku:そんな当時をシミュレーションしながら、誰々がカッコいい!という衝動は抑えないっていうのが今の僕のスタイルです。

ーいま気に入っているアーティストは?

☆Taku:いっぱいいますよ。それこそトーフくん(tofubeats)も好きだし、今回リミックスで呼んでいるWONKのサウンドも大好きだし、先輩の大沢伸一さんのアルバムもすごく良かったし、海外だとMURA MASAが好きだったり、3曲目「MAKE IT BREAK IT」のドラムンベースはMURA MASAの影響を受けてるなと思ったり。今は何でも吸収しちゃう。長年やってるとプライドが出てくるじゃないですか。先輩になってきて周りは後輩ばかりだし、彼らより劣っていちゃダメだみたいなところがあったりするけど、そういうの関係なくLISAがよく言う“ぶっ飛ばされた! やられた!”みたいな気持ちがすごくエネルギーになっているのかな。

VERBAL:僕は自分の人生においていろんなものが交差しているポイント、リセットしたいなっていう時期でもあって。30代後半にかけてはいろんなものを買って持っていったんですけど、39歳になったとき、何のためにやってるんだろうと。それで40歳になってどんどん減らしていくというプロセスを経て。あと2016年末に事故があって、何かのメッセージだなと思っていろいろと一新したいなと思っていたこともあり、音楽ももう一度聴き方を変えたいと思っているんです。もちろん流行っている音楽も聴くんですけど、普通に好きなものは好きだ!っていうのでいいんじゃないかなって。吸収もするけど、無理矢理それを好きになろうとしなくてもいい。いまだに新譜で刺さったのは、メイヘム・ローレン&DJマグスとかゴリゴリなんですけど(笑)、そういうものが好きだったりしちゃうのは僕のDNAなんで、そこは突き詰めていけたら。

m-floに関しても根本は『Planet Shining』から始まってるんだから、それでいいじゃんって。☆Takuとは違う表現かもしれないけど、僕も素直に好きだって思うものは好きだし、Spotifyでも新しい曲は何があるんだろう?って聴いたら、結局はSUPERCARの「WHITE SURF style 5.」ばっかり聴いてたり(笑)。BONNIE PINKの昔のアルバムとか、最近だと水曜日のカンパネラがいいなとか、好きなもののゾーンは決まっているので、そこは素直になって聴く方がインスピレーションにもつながっていいのかなっていうところですかね

☆Taku:僕とVERBALは近いけど、LISAは常に素直だよね。

LISA:フィール・ナウですから(笑)。

VERBAL:無理矢理フィールしようとしていた自分がいたんですけど、フィールできないものはできないんだよって、そんな自分も認めてもいいんじゃないかなっていうふうになってきたのかな。

☆Taku:フレッシュに感じることは大事で、自問自答もするんですよ。昔の音楽が好きっていうのは、自分がおじさんになったからか、もしくは自分にセンスがあって一周してそれがカッコいいものだって判断できるようになったからかって。おじさんになってるのは間違いないけど(笑)、その中でセンスがあったらいいなって。

VERBAL:リル・パンプが好きな若い子たちは、みんなインスタを見ながらとかそういうカルチャーで育ったから入り方が純粋なんですけど、僕たちの場合、インスタグラムというSNSが…っていう先入観で入ってるので、こういう若者がいるのかっていう見方をしちゃうんです(笑)。昔に自分らがパブリック・エナミーを聴いたときとか、ノーティ・バイ・ネーチャーを好きになったときって、来日ライヴを観てカッコいい!っていうところから入ったり。やっぱり音楽って体験型じゃないですか。だからフェスは思い出深かったりすると思うんだけど、とにかくフィールすることが大事。だから音楽にハマるためには体験しに行くのがやっぱり一番いい。勉強みたいな聴き方はやめようと。

☆Taku:楽しくなきゃね。

VERBAL:コーチェラ・フェスティバルに行ったときも、流行りのDJを観に行こうと思ったら結局はランシドを観に行っちゃって、お客さんは50人くらいしかいないけど最高!みたいな(笑)。おじいちゃんが踊り狂ってたんですけど、その人と一緒に超暴れちゃって。でもそれでいいのかなって。

ー最後はLISAさんに締めてもらいましょう。

LISA:m-floは、もう一度このように3人でやれること自体がミラクルだと思っているので、このフィーリングをずっと忘れないで進んで行きたいですし、今も過去も未来もイッツ・オッケー。今・イズ・ファンタスティックっていうところはより一層素直にやっていきたいです。



NEW SINGLE
the tripod e.p.2


m-flo
1998年にインターナショナルスクールの同級生だった☆Taku TakahashiとVERBALの2人で活動をスタート。のちにLISAが加入し、m-floとして本格的に始動する。同年にインディーズからリリースした「The Way We Were」が驚異的なセールスを記録。99年7月に1stマキシシングル「the tripod e.p.」でメジャーデビュー、オリコン初登場で9位をマークした。その後も快進撃を続け、シングル12枚、オリジナル・アルバム2枚をリリース。2ndアルバム『EXPO EXPO』は80万枚のセールスを樹立し、J-POPシーンに強烈なインパクトを与えた。2002年にLISAがソロ活動に専念するため、惜しまれながら脱退を決断。03年、VERBALと☆Takuの2人となったm-floは、さまざまなアーティストとコラボしていくという「loves」シリーズで日本音楽史に“featuring”という概念を定着させた功績が大きく評価されている。05年に日本武道館でワンマンライブを、07年に横浜アリーナ公演をかつてないほどのスケールで大成功させる。また、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」や「SUMMER SONIC」といったで音楽フェスのステージにも登場するなど、アンダーグランドからオーバーグラウンドまで、縦横無尽な活動を展開。08年、41組とコラボレーションを実現した「loves」シリーズに終止符を打ち、新たな可能性を求め、プロデュースやリミックス、DJ、また自身ブランドや別ユニットなど個々活動で活躍していた。2017年12月、オリジナルメンバーのLISAが復帰し、LISA・VERBAL・☆Taku Takahashiによる最強トライポッド「m-flo」が15年振りに復活。2018年にデビュー20周年を迎えるm-floが再び日本のメインストリームに新風を吹き込む。

掲載:Rolling Stone Japan vol.02(2018年3月25日発売)

Interviewer = Tomo Hirata Text = Takuro Ueno (Rolling Stone Japan), Motomi Mizoguchi

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