ザ・ローリング・ストーンズが語る、新作『Hackney Diamonds』知られざる制作秘話

Photo by Mark Seliger

 
ザ・ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)が、2005年の『A Bigger Bang』以来18年ぶりとなる新作スタジオ・アルバム『Hackney Diamonds』を10月20日にリリースする。豪華ゲストも参加した本作の制作背景をミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ロン・ウッド、スティーヴィー・ワンダーらが語った。


2022年、ザ・ローリング・ストーンズが最後にオリジナル・アルバムをリリースしてから17年が経ち、ミック・ジャガーは焦りを感じ始めた。前年にこの世を去ったドラマーのチャーリー・ワッツの喪失感に耐えながらも、バンドはツアーを続けていた。この10年以上は、ツアーの合間に新作へ向けたスタジオ・セッションを断続的に続けていたものの、アルバムに使えそうな作品をまとめるまでには至らなかった。2022年8月にバンドがドイツのベルリンでツアーを締めくくると、「今しかない」と腹を決めたミックが、キース・リチャーズに声をかけた。

「キースには、“ものになりそうな素材もあるが、ほとんどが使えるレベルに無いよな”と伝えた」とミックは、イタリアからの電話インタビューで当時を振り返った。「(アルバム完成の)デッドラインを決めて、ツアーに出よう」と言うミックに対してキースは、「いいね。これまでの俺たちのやり方と同じだな」と応じたという。ミックは笑いを堪えられなかった。「きっとキースは、俺のとは全く違う話をすると思うよ」。

「“今こそアルバムを作る時だ”というミックの提案から始まった」とニューヨークに滞在していたキースが、電話の向こうで語った。「俺もとっくにそのつもりでいたが、“その通りだな、ミック”と、彼を立ててやったよ」とキースは笑う。「ミックが、“今俺たちが取り掛かっているやつを、がんばって仕上げてしまおう”と言うから、俺は“自分が歌いたい曲ができるまで付き合うよ”と言ってやった。ミック自身が満足して歌えたら、それで90%は完成したようなものさ」。

ミックは2023年のバレンタインデーに、自分たちの「デッドライン」を設定した。ただしキースは「ちょっと難しい」と感じていた。

「俺は“確かにちょっと無理っぽいかもしれないが、がんばってみよう”と言った」とミックは振り返る。



自ら尻に火を付けたことが、功を奏した。『Hackney Diamonds』は、2023年10月20日にリリースが決まった。アルバムには、ハードロック曲「Angry」から、4つ打ちのディスコ曲「Mess It Up」やカントリー・ホンクの「Dreamy Skies」まで、デビューから60年以上にわたってバンドが培ってきた幅広いスタイルの楽曲が収録されている。収録曲のうち2曲は、チャーリー・ワッツが生前にレコーディングしており、残りのドラムはスティーヴ・ジョーダンが叩いている。スティーヴは80年代からキースと付き合いのあるドラマーで、ストーンズのツアーにも参加している。

「レトロな曲、レトロなサウンド、レトロな演奏を再現しようなんて考えていなかった」とミックは言う。「正に今レコーディングしたものとして聴こえるはずだ。ある意味で、実際にその通りだしな」。

アルバムのクレジットには、ポール・マッカートニー、スティーヴィー・ワンダー、エルトン・ジョン、レディー・ガガ、さらには元メンバーのビル・ワイマンといった、ポピュラーミュージック界のそうそうたるメンバーが名を連ねている。ビルは、チャーリーが生前最後にレコーディングした楽曲のひとつに参加した。アルバムのエンディングは、バンド名の由来ともなったマディー・ウォーターズによるブルーズの名曲「Rollin’ Stone」を、ミックとキース2人だけで演奏している。バンドはデビューから61年経つが、同曲を正式にレコーディングしたのはこれが初めてだった。彼らの言うように「今でなければ実現し得なかったアルバム」と言える。

Translated by Smokva Tokyo

 
 
 
 

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