ザ・ローリング・ストーンズが語る、新作『Hackney Diamonds』知られざる制作秘話

 
バンド名の由来となった曲を演奏する意味

『Hackney Diamonds』の何が素晴らしいかと言えば、もちろんゲスト・ミュージシャンの顔ぶれも凄いが、これがローリング・ストーンズのアルバムだという点にある。特にミック・ジャガーのエモーショナルなボーカルは、ダイレクトに響いてくる。「1テイク録ったところで、ミックが“これは良すぎた”と言うんだ」とアンドリューは振り返る。ミックは「もっと“削って”歌い直す」という。「どういう意味ですか?」と問いかけるアンドリューに対して「もっと感情を削ぎ落とさなきゃいけない」とミックは答え、もっとリラックスした感じで録り直した。すると、これまでになく素晴らしいキャッチーなテイクが録れたという。

「楽曲を完全に自分のものとして歌えるようになるまで、時間をかけなきゃならない」とミックは言う。つまり、これまでに数えきれないほど歌ってきた「Paint It, Black」も、新しい曲も、同じレベルで歌えなければならないというのが、ミックの理論だ。「2000回も繰り返し歌えと言っている訳ではない。でもわずか3テイクでは、自分の作品としてものにできない。新曲も、ステージで何度か演奏してみると熟れてくる。レコーディングの時点から曲を自分の中に吸収して、熟れた状態に持っていくべきだ」。

ミックとキースは、個人的な出来事を深掘りした歌詞を書いた。「もちろん他にもいろいろあるが、主に人間関係をテーマにしたアルバムだ」とミックは言う。「『Dreamy Skies』は人間の内面について歌っている。『Sweet Sounds of Heaven』はゴスペル調の曲だが、歌詞の内容は個人的なものだ。『Whole Wide World』は、“人生で何が起きても乗り越えられる”と、冗談を交えながらも励ます内容の歌だ。ロンドンで過ごした青春時代の経験や、フラムでの生活を書いた曲もある」と説明したところで、ミックは少し間を置く。「実際にフラムで暮らしたことはないが、 “filthy”という単語と韻を踏みやすかったからな。チェルシーよりもいいだろう」と笑った。

一番のお気に入りとして「Whole Wide World」を挙げたロンだが、ニューアルバムには印象的な曲が多いという。「『Angry』『Tell Me Straight』『Driving Me Too Hard』のキースのギターは秀逸だ」とロンは言う。「『Driving Me Too Hard』は、カントリーっぽくて他とは違った雰囲気がある。『Dreamy Skies』は、『Sweet Virginia』を思わせる魅力的な曲だ。『Mess It Up』はチャーリーのドラムをフィーチャーしたダンス曲だし、他にも俺のお気に入りの幅広いジャンルを網羅したアルバムだ」。


Photo by Mark Seliger

アンドリューは、アコースティック・ブルーズも1曲加えるように提案したが、ミックとしてはオリジナル曲を新たに書く気はなかった。ミックは「アンディー、俺は今28曲分の歌詞を書いている最中だ。本来なら、とっくに仕上がっていなければならない。今からブルーズの歌詞を書く時間はない」とアンドリューに告げた。そこでミックとキースは「Rollin’ Stone」をカバーすることで、アンドリューの提案に応えることにした。「キースと一緒に楽しめた」とミックは振り返る。「この曲には手を付けていなかったので、ちゃんと覚えなければならなかった。マディー・ウォーターズの作品はたくさんあるが、バンド名の由来となったこの曲だけは、カバーしたことがなかった。自分たちでも理由はわからないけれどね」。

ロンによると、アンドリューはスタジオ作業を中断して、ミックとキースに「少年時代のあなた方2人が駅で出会った時に、ミックが小脇に抱えていたレコードに収録されていた曲を、これからレコーディングすることになるんですよ」と告げたという。それがマディー・ウォーターズの「Rolling Stone Blues(原題:Rollin’ Stone)」だった。「とてもいい話だ」とロンは言う。

ミックとキースにとって、マディー・ウォーターズのレパートリーは得意中の得意だった。「ミックと俺にとっては朝飯前さ」とキースは言う。さらにキースは、アンドリューがレコーディング用に選択したギターと、彼が作り出すサウンドに感銘を受けたという。「俺では思い付かないようなことが実現できて、本当に良かったよ。アンドリューは俺たちに、“マジかよ!(Come on!)”と言わせたかったんだな。」(※訳注:ストーンズの1stシングルはチャック・ベリーのカバー曲「Come on」だった)

「つまり、あの曲は俺たちにとって、ある意味であまりにもベタ過ぎるということさ」とキースは続けた。「俺たちのバンド名の由来になった曲だしな。スタジオでミックと俺は顔を突き合わせて、“よし、ちゃんとやらなきゃな”という感じで始めて、その通りにやり遂げた」と彼は言う。

「テイクを重ねるごとに、2人の距離がだんだん近づいていった」とアンドリューは証言する。「確か、テイク4をアルバムに採用したと思う。曲の初めはタイミングがバラついているようでも、クールだった。彼らはお互いに競い合っているようだった。そして、ミックのハープ(ハーモニカ)とキースのギターが、同じリックをユニゾンしながらエンディングを迎える。同じインヴァージョンに同じ音符、そして同じリズム。2人が正に一つになった瞬間だ。僕には、何があっても2人はお互いを必要としているように見えた」

ミックとキース、そしてロンも含めて、彼らは元来、お互いを支えとしている。ミックとキースが初めて出会ってから、約75年が経つ。キースは自分の年齢を考えた時に、全てに疑問を感じることもある。「俺はいったい何をしているんだ? 80歳の俺がロックンロールしている」と大笑いする。しかしそんな考えも、すぐに頭から消え去ってしまうという。「自分の歳のことなんか気にするもんか」と、キースは楽しそうだ。(ちなみにインタビュー時点でキースは79歳、ミックは80歳だ)。

「Rollin’ Stone」をアルバムのファイナル・トラックに持ってきたということは、これがローリング・ストーンズ最後のアルバムになるのだろうか? 「もうかれこれ40年も、そんなことを言われ続けてきたよ」とキースは笑う。「“その歳でいったい何をやっているんだ”と不思議がられるが、“これが俺のやり方さ”と答えるしかない」とキースは言う。

Translated by Smokva Tokyo

 
 
 
 

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