SawanoHiroyuki[nZk]が語る、2022年の音楽活動、ASKAとのコラボ、エアロスミスの話

ASKAとの共演で感じたこと

―いまお名前が挙がりましたけど、今作では「地球という名の都」でASKAさんをボーカリストに迎えられています。さらに作詞もASKAさんが手掛けていますね。憧れのアーティストとの共演、いかがでしたか?

いやもう、本当に幸せなことですね。



―これはどうやって実現したんでしょう。

ASKAさんは僕が音楽を始めるきっかけになった方で、一度どこかでお会いしたいと思っていたところ、一昨年に自分のライブのパンフレット用に対談をしていただいて、その対談の終わりにASKAさんがポロッと「最近はいろんな人とコラボしたいと思ってるから、澤野くんも一緒にやれたらやろうよ」と言ってくださって、だったらということで今回ダメ元でオファーさせてもらったら引き受けてくださったっていう。

―ヤバいですね。自分が音楽をやるきっかけになった人に詞を書いてもらって、歌も歌ってもらって。

もちろん幸せですし、それと同時に「これ、現実なのかな?」って思ってしまうぐらい不思議でもあって。しかもリスペクトしてる方なので当然緊張もして。でも、ずーっと充実した時間でした。ASKAさんのプライベートスタジオで録ったんですけど、ASKAさんの歌をヘッドフォン越しに聴いたり、たまにヘッドフォンを外して生の歌声を聴いたりして、「いやぁ、すげえ時間だなあ……」と思いながら過ごしてました。

―そうなりますよね(笑)。レコーディングにまつわるエピソードって何かありますか?

ASKAさんは歌詞にすごくこだわってくださって、本来レコーディングにあてていた日があったんですけど、その日は1コーラスまでしか歌詞を書けなくて、でも2週間後にはMVの撮影を控えていたので周りはヒヤヒヤしていたんですよ。なので何日か後に改めてスタジオに行ったらまだできていない。で、「さすがにこの日までには……!」というタイミングでついに完成して。でも、僕自身はヒヤヒヤするというよりも、ASKAさんを追っかけていた若い頃にテレビで観ていたドキュメンタリーを生で体感している感覚になったし、ASKAさんが歌詞についてすごく悩まれている姿を見ていてうれしくて……と言ってしまうと必死に悩まれているASKAさんに対して失礼ですけど、そういう状況にいられたことにワクワクしたし、勉強にもなりましたね。

―こういう経験を味わうと、なんだか一生頑張れそうですよね。

そうですね(笑)。ここまでやったからには音楽家として頑張らないとと思いますね。

―今作の特設サイトに寄せられたASKAさんのコメントに「髭を剃りなさい」とありました。

これまでも髭を剃っていたことはあるんですけど、ASKAさんが言ってくれたことがきっかけになって人前に出るときは剃ってもいいかなと思うようになりましたね。あと、その言葉のあとに「もう舐められないって」っていうASKAさん流のジョークが添えられているんですけど、僕はその言葉から教えられたというか。

―それはどういうことですか?

自分が劇伴作家としてキャリアをスタートして、途中から[nZk]としてアーティスト活動を始めたんですけど、「アーティストとして」みたいな話を振られると、「いやいやいや! 自分はまだアーティストなんて偉そうに言える立場じゃないですから!」みたいな発言をしていたんですけど、ASKAさんの言葉には「もっと堂々としなさい」という意味が込められているような気がして。プロデューサーとして活動するなら、自分の曲に自信を持っているなら、もっと堂々と立っているほうがいいって。別にそんな意図はなかったのかもしれないけど、自分はそう受け取ったんです。

―なるほど。

あと思ったのは、ASKAさんって「SAY YES」でヒットを飛ばしてから堂々とするようになったわけじゃなくて、それ以前からも自分の曲には自信を持っていたし、テレビでも凛として立っていたんですよね。だから自分も成功云々ではなく、澤野弘之というひとりのアーティストとして堂々と立っていないといけないんだなって改めて感じたので、これまでもASKAさんの書籍とか歌詞に背中を押されてきたんですけど、今回もまたジョークめいたコメントまで含めて勝手にASKAさんの思いを汲み取ることができたし、本当に感謝しかないですね。

―「地球という名の都」は澤野さんが書かれた曲ですけど、ASKAさんの声が乗るとASKAさんの曲になりますよね。

ああ、それはすごく言われます。ASKAさんの声が乗ったこととASKAさんが詞を書かれたことも大きいと思うんですけど、ASKAさんにとって歌いやすいリズムの取り方というのがあって、レコーディング中に当初のデモからAメロのリズムの一部を変えたので、そうすることで自分で聴いててもASKAさんぽい曲だなと感じる部分が出てきましたね。逆に、ASKAさんからはサビのリズムについて「シンコペの取り方に澤野くんらしさがあるよね」って言われたし、意外とリズムにもその人のクセが出るし、重要なんだなと改めて思ったりしました。

―もともとASKAさんが歌うことを想定していた曲なんですか?

そうではないんですよ。さっき話したように、もともと[nZk]は曲をつくってからどのボーカリストの方にお願いするか考えるという流れが多いんですけど、ASKAさんに関してはそうではなくて。

―それはなぜでしょう?

ASKAさんに歌ってもらうことが決まってから曲をつくったら、完全にASKAさんに引っ張られた曲をつくるだろうと思って、だったらそういうことを意識しない段階でつくったものをASKAさんに渡すほうがコラボする意味があると思ったんですよね。それでも結果的にASKAさんが歌うことでASKAさんぽくなるという発見がありました。

―確かに、決まってから書くとしたら、憧れのアーティストにはどうしても引っ張られちゃいますね(笑)。

逆に、無理やりASKAさんらしさから外れたことをするのも違うと思ってましたし。



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